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連載・特集

高校人国記 西条農業高校(東広島市) <下> 県土の開発 官民で担う

土木畑歩き学園都市建設を推進

酒米「農家のニーズにあわせる」

 生産県構想に基づく工業団地造成などに伴い、多くの卒業生が官民で広島県内各地の開発を支える一翼を担った。官公庁ごとに職域の同窓会組織も生まれた。その一つが1973年に発足した県庁土木部門の「つるはし会」である。初代会長に就いた石井康隆(85)は会発足から半世紀近く、行政職員として、また退官後は地元住民組織の代表として、賀茂台地の開発に関わってきた。

 つるはしとは、固い地面やアスファルトを砕くために使う土木工事の道具を指す。会の結成は、賀茂郡西条町(現東広島市)への広島大統合移転が決まった年だった。翌74年、西条、八本松、志和、高屋の4町が合併し、東広島市が生まれた。当時、県の道路建設課企画係長。主に土木畑を歩き、JR西条駅と広島大を結ぶ幹線道ブールバールをはじめとする賀茂学園都市・広島中央テクノポリス建設などに関わった。

 県庁では戦後復興で技術職の不足していた土木部門に、農政部門から多くの卒業生が異動した。「それがつるはし会結成にもつながり、県土の開発を担った」という。78年から2006年までの東広島市長には、讃岐照夫(16年に95歳で死去)、上田博之(06年に73歳で死去)と西農出身の県出納長経験者が続いた。石井は市と連携し、学園都市建設を推進した。

 県を退官後、同市の住民団体・寺家地区街づくり研究協議会会長などとして西条―八本松駅間への新駅設置に力を注いだ。その寺家駅は開業3年目を迎える。「新駅構想は県が1975年に策定した賀茂学園都市建設基本計画に盛り込まれなかったが、その2年前に地元自治体がつくった開発計画には記述があった。消えた地元要望が実現した」

 高度成長に伴う開発ラッシュで官を辞し、土木関連で起業した卒業生もいる。ミネオカ測量設計(尾道市)会長の峯岡専(83)がその一人。尾道市に技師として入り、農道などの測量設計業務を担っていたが、国内初の本格的斜張橋として68年に完成した尾道大橋が背中を押した。「大橋を建設していた日本道路公団の若手技師と地元のスタンドバーで意気投合し、新技術の自慢を聞いた。(私も)造りたいと思った」

 尾道大橋完成から2年後に市役所を辞め、退職金を元手に起業する。区画整理事業などを次々に受注した。尾道大橋では国道2号へのアクセス道建設に伴う測量を受注、「うれしくて率先して現場に行った」ほど。「民間ベースで測量の新技術を貪欲に取り込めた。地域貢献の実感もあった」と振り返った。

 農業関係では研究職もいる。NHKテレビ「趣味の園芸」で講師を務めた元東京農業大助教授の大坪孝之(80)は現在、日本梅の会会長を務め、首都圏を中心に梅園を回り、栽培指導を続けている。

 地元では、元県立農業技術センター所長の前重道雅(84)。広島オリジナルの酒米「八反」をベースにした「八反錦」などの開発を推し進めた。収量が多く、栽培しやすい酒米を求める県内農家のニーズに応える狙い。八反錦は酒米栽培の適地とされた安芸高田、三次、庄原3市に広がった。

 しかし、吟醸酒ブームが八反錦に影を落とす。米の中心部だけを残し削り取る高度精白を、酒米に突き付けたのだ。「まさか、そんな時代が来るとは思わなかった」。今はJA広島中央の水稲技術アドバイザー。高度精白に適した「山田錦」栽培に取り組む東広島市の農家指導を続け、「ニーズにあわせることが地元酒造業界と農家の繁栄につながる」と説く。

 退官後、中国電力エネルギア総合研究所の技術顧問を務めた。そこに研究員として勤める江木和泉(43)は20年余り前、前重から酒米や日本酒について教えを受け、「(研究者として)奥が深い」と感じた。

 母校そばに立つ研究所。環境技術グループの一員として、ゼネコンと共同で壁面緑化システムに取り組んできた。昨年11月には特許登録が実現した。「高校時代、専門教科である生物工学の先生が楽しそうに授業をしていた。私も楽しかった」=敬称略(編集委員・杉本貢)

 <かつての卒業生>川村毅(1922~2011年)広島大名誉教授。広島陸上競技協会会長として全国都道府県対抗男子駅伝競走大会の創設に尽力した▽富永保人(1922~94年)広島農業短期大学名誉教授。マツタケ博士として知られた▽神田三亀男(22~2017年)民俗学者。県職員として農業指導で地域を回りながら民俗調査に取り組んだ。「原爆に夫を奪われて」などの編著書もある▽新川英明(1924~2014年)広島女子大教授(動物生態学)などを務め、中国文化賞を受賞した▽村上秋人(1927~2014年)発芽野菜のトップメーカーとなった村上農園(広島市佐伯区)創業者

 <同窓会の組織>農学校時代を含めた卒業生総数は2万3千人。うち物故者などを除く1万3千人が登録している同窓会は県内計53の支部に加え、近畿と東日本の支部もある。このほか、つるはし会や県庁支部、中国地方整備局の建西会など七つの職場組織がある。現在のつるはし会会長である山城辰夫(56)=県東部建設事務所工務二課長=によると、東広島市の飲食店に母校の緑地土木科教師も招き、年1回総会を開いているという。「かつては100人を超す会員がいたと聞くが、今は30人あまり。毎回、その半数が総会に参加する。野球部が選抜大会に出場した時に作った、つるはしをデザインした会の旗も引き継ぎ、総会では必ず掲げている」と話している。

 「高校人国記」は広島、山口両県を中心に回って、高校ごとに話題の卒業生をご紹介しています。各校の情報をメールなどでお寄せください。

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(2019年7月26日中国新聞セレクト掲載)

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