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連載・特集

高校人国記 広島城北高校(広島市東区) <4> 研究や教育へ 多数の卒業生

〝原点〟は「面白い意義ある学び」の追究

ささいなことでも生徒の良い点見つけてくれた

 「高校時代、受験勉強をしながら『テストで高得点を取るために暗記する』という勉強の仕方に疑問を持ち、もっと面白い意義のある学び方はないかと思っていました」―聖心女子大教授、益川弘如(ひろゆき)(43)は回想する。一方では友達と大好きなコンピューターで遊びながら「コンピューターという道具は人の学習に役立てることができるのでは」とも考えた。

 こんな思いを〝原点〟として教育学の道へ。情報通信技術(ICT)を活用し仲間とコミュニケーションをしながら深く学ぶための授業の在り方を、認知科学の成果に基づいて研究。数々の提言を行った。現在、文部科学省の学力調査に関する専門家会議の委員などを務め、今年、母校の教育アドバイザーにも就いた。「高校ではテストのための勉強ではなく、いろいろな教科を楽しむことが大切です」

 慶応大教授の経済学者坂井豊貴(43)も幼い頃の疑問が今の研究につながった。「小学校で多数決によって決められアンフェアだと感じたことがある。それが心に残っていて社会の仕組みには関心がありました」。著書「多数決を疑う」で民主主義の根幹とされる多数決が本当に最善の方法か問うなど、社会制度の在り方に著書やテレビ出演を通じて積極的に発言を続ける。

 「高校時代に文章を書くのが好きだと自覚しました。日直日誌に受けを狙って書いたら先生はちゃんと受け止めて面白がってくれ、5日連続で書いたこともある。ささいなことからでも生徒の良い点を見つけてくれた。そんな体験が論文を書く上で生きています」。毎日午後10時から午前1時まで本の原稿を執筆する生活。「みんな社会は変えられないと思っているけれど、社会は人間がつくったもの。人間が変えることができるのです」

 坂井の研究成果をビジネスに生かしているのが不動産会社を経営する同級生の今井誠(43)。「不動産の販売にオークションという方法があることを広めている」という同社の顧問に、オークション理論を研究している坂井を招いた。

 大阪大大学院准教授新見康洋(39)の〝原点〟は「高校時代の数学の先生の授業が非常に筋が通っていた」こと。ロジックを重ねて解答を導く明快さに魅了された。東京大、さらに同大大学院へ進み、物理学の成果を工学的に応用する研究の道を選んだ。電子の持つスピンという性質の制御、測定に関する研究では世界初の成果を上げ、文部科学大臣表彰を受けた。

 高校時代はテニス部にいて、「自分だけにしかできない方法」へのこだわりも身に付けた。表彰された研究も他の研究者とは違う方向からのアプローチだった。現在チャレンジしているのも「人とは違う方法」。固体物質の性質を観測するため、多くの研究者が原子の大きな結晶を作ろうとしているのとは逆に、できるだけ小さな結晶で精度の高い観測を目指している。

 大谷和也(33)は京都大大学院を経てアステラス製薬の研究員。公立中でトップクラスだった成績が城北高では最下位近くになり「心が折れた」。立ち直ることができたのは「親身になって声を掛けていただき、質問するとプラスアルファの解答や応用法まで説明していただいた先生方の熱烈なご指導のおかげ」。「薬は一度開発すると未来永劫(えいごう)人を救える」と力を込める。落葉裕信(42)は原爆資料館学芸員として、同館のリニューアルに尽力した。

 ほかに東京大准教授吉本敬太郎(細胞工学)、名古屋大准教授藤原幸一(ヒューマンシステム論)、金沢大准教授林直樹(農村社会学)など多くの卒業生が研究者の道へ進んだ。母校の教頭中川耕治(59)をはじめ小中高校で教師として活躍している人も多い。

 異色の存在は心療内科医長井敏弘。広島大工学部を卒業後、公務員、教師、建築作業員など職を転々とし、27歳で広島大医学部に再入学。だが学資稼ぎで予備校の講師をしたことから、現在は医療法人の理事長をしつつ予備校関係の会社など三つを抱える。卒業生の医師の会、城北医会の会長で、母校を運営する城北学園の理事も務めた。そんな経験から後輩には「自分のやりたいこと、自分の能力を生かせる場を見つけること」を訴える。=敬称略(客員編集委員・冨沢佐一)

<特色ある施設>鯉昇(りしょう)館(1階は最大680人収容できる多目的のメイプルホール、2階は先進機器や設備を備え、授業に応じて自在にレイアウトできる教室、3階は武道場)▽山紫寮(8階建てで全95室が個室。学習室やトレーニングルームがあり、毎日3時間の自習時間が決められている)

<学校史から>1966年、財政危機に陥り経営陣が交代。翌年、現校名に変え、山林を購入して校地を造成。従来の運動場(現市立戸坂城山小の位置)を売却し負債を返済した▽2001年、米中枢同時テロで富士銀行ニューヨーク支店に勤務していた同窓生が犠牲になった

 「高校人国記」は広島、山口両県を中心に回って、高校ごとに話題の卒業生をご紹介しています。各校の情報をメールなどでお寄せください。

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(2019年7月5日中国新聞セレクト掲載)

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