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社説・コラム

『想』 中木啓(なかき・ひろし) 毎朝の広島城登城

 「散る花や 光るタマゴの夢の跡」

 これは、「チームラボ 広島城 光の祭」が終了し、全ての設置物が撤去された朝に詠んだ句(?)です。2~4月に、夜の広島城を彩っていた光のイベントが終わり、城内にも再び静寂が戻ってきました。

 私は毎朝、バスで通勤しています。旧広島市民球場前の「紙屋町」で降り、そごう広島店前を左折してひろしま美術館横を過ぎ、真っすぐ「二の丸」に向けて歩きます。つまり現在は埋め立てられている広島城の「外堀」から「中堀」を通り、今も残る「内堀」に至るのです。

 そして、足音を聞きつけて集まってくる鯉(こい)たちに「今日もカープが勝つぞ!」と声を掛けながら「御門橋(ごもんばし)」を渡り、ハトやスズメが屋根で迎えてくれている「表御門(おもてごもん)」を「開門!」と声を出しながらくぐり「二の丸」に入ります。次に「土橋」を渡りますが、運のよい朝にはカワセミのダイビングが見られ、冬場には多くの渡り鳥たちがお堀に浮いています。

 橋を渡りきると、右に急角度で曲がる「中御門(なかごもん)」跡を通り、「本丸」下段に入ります。ここでは護国神社に今日一日の平穏を祈ります。続いて、春は桜、秋は紅葉に彩られる本丸上段を通り、時折イタチが出入りする「天守台」の石垣の階段を上がります。そして鯱(しゃち)の上にトビが止まる「天守閣」を仰ぎ見ます。このように自然が多く残る城内で、昔の武士の登城気分を毎朝味わっているのです。

 開館業務が終わり、第五層の展望室から外を眺めると、被爆から見事に復興した広島の街が広がります。原爆で倒壊したかつての国宝・広島城を思い浮かべるのは容易ではありません。しかし、広々とした内堀や周囲の石垣だけでも他城を圧倒していると感じます。寄せ来る都市化の波を堀と石垣が防いでいるようで、頼もしいとも思います。

 「浅野氏広島城入城400年記念事業」として、7月から三つの連続企画展やイベントを開きます。この機会にぜひ登城して広島城の自然や歴史に触れてみてください。(広島城館長)

(2019年5月15日中国新聞セレクト掲載)

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