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「黒い雨」 被爆者手帳 集団申請 広島県内 原告以外の219人

 広島への原爆投下後に降った「黒い雨」を巡る訴訟の広島高裁判決の確定や原告以外の黒い雨被害者も救済する政府方針を受け、訴訟に参加していない広島県内の少なくとも219人が11日、被爆者健康手帳の交付を一斉に申請した。申請者を被爆者と認定するには現行基準を見直す必要があるが、厚生労働省と県、広島市の協議は難航。見直し内容や手帳の交付時期が不透明な中での集団申請となった。(松本輝)

 中国新聞が申請窓口である県内23市町に取材したところ、代理申請を含めた申請者は同日午後4時現在、広島市が最多の189人。廿日市市17人▽安芸太田町6人▽北広島町3人▽三次市、東広島市、府中町、海田町各1人。この日までに申請した人もいるほか、今後、準備が整い次第、書類を提出する人がいるとみられる。原告以外の申請者数はさらに増える見通しだ。

 広島市中区の申請会場には、黒い雨の被害に遭ったとする高齢者97人と本人に代わる支援者たちが訪れた。それぞれ黒い雨を浴びたり、雨の流れ込んだ水を飲んだりした当時の体験などをまとめた書類を担当職員に提出した。

 現在の国の援護対象区域外で黒い雨を浴びた人たちを被爆者と認めるには、認定基準を改定する必要がある。厚労省と県、広島市が7~10月に4回、オンラインで協議したが、作業は進んでいないという。広島市援護課は「基準の改定後、早急に認定できるよう、申請者が雨を浴びた状況などの審査を支障のない範囲で進めておきたい」とする。

 政府は7月、原告84人全員を被爆者と認定した広島高裁判決に対して上告を断念し、原告以外の被害者も救済するとした首相談話を閣議決定。その後、県や広島市などへ申請に関する相談や問い合わせが相次いだ。訴訟の原告弁護団などが相談会を開き、同市への集団申請などにつながった。県は、援護対象区域外で黒い雨に遭うなどした人は原告と死者を除いて約1万3千人と推計している。

「黒い雨」訴訟を巡る確定判決と政府方針
 国は1976年、黒い雨が降った卵形のエリアのうち、爆心地から広島市北西部にかけての長さ約19キロ、幅約11キロを援護対象区域に指定した。今年7月14日の広島高裁判決は昨年7月の一審広島地裁判決に続き、援護対象区域よりも広範囲に降ったと認定。被爆者認定は「放射能による健康被害が生じることを否定できないと立証すれば足りる」と判断し、原告全員に被爆者健康手帳を交付するよう命じた。菅義偉前首相は上告断念を表明し、原告の勝訴が確定。政府は「訴訟への参加・不参加にかかわらず認定し、救済できるよう早急に対応を検討する」との首相談話を閣議決定した。

(2021年10月12日朝刊掲載)

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