×

ニュース

岸田首相 核廃絶へ行動して 若者から期待と注文 締約国会議 参加を/被爆資料 次世代に

 被爆地広島を選挙区とする岸田文雄氏が首相に就任して以降、就任会見などでの「核兵器なき世界」を巡る発言が注目されている。核兵器廃絶運動に取り組む若い世代はどう受け止めているのか、聞いた。

 「これまでのご発言が本当であるのなら、今こそ行動に移してください」。慶応大3年の高橋悠太さん(21)は4日の就任会見をスマートフォンで視聴し「核兵器のない世界を目指す、これはライフワーク」と岸田氏が語るのを聞くと、すぐさまツイートした。

 盈進高(福山市)を卒業後、横浜市に住みながら「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(カクワカ広島)の共同代表を務める。広島県など選出の国会議員と面会し、核兵器禁止条約や核軍縮について考えを聞いている。米国の「核の傘」に頼る日本は、どう廃絶を目指すのか。具体策を聞きたいが、岸田氏は特にハードルが高いという。

 カクワカは広島市内の岸田氏の事務所にこれまで2年半で十数回、手紙やファクスで面会を打診している。昨年10月、市内で著書「核兵器のない世界へ 勇気ある平和国家の志」のサイン会があり、列に並んだメンバーが活動を説明すると「一緒にがんばりましょう」と書いてくれた。しかし事務所からは「忙しい」と言われたままだ。

 カクワカ発起人でカフェ・ハチドリ舎(広島市中区)店主の安彦恵里香さん(42)は先日、次期衆院選に向けたアンケートを事務所に送ったが「閣僚なので回答できない」だった。「政治家として政策を有権者に説明する責務がある。『聞く力』はどこに」と残念がる。

 2017年に核兵器禁止条約の実現を目指す交渉会議が国連で開かれた際、当時の岸田外相が日本の不参加を発表した。来春に予定される条約の第1回締約国会議を前に、せめて日本はオブザーバー参加を、と被爆者や市民団体は求めている。NPO法人ANT―Hiroshima(中区)理事の渡部久仁子さん(41)は「被爆国の首相として出席し、条約推進国の主張を聞く力を発揮してほしい。世界の核被害とも向き合って」と強調する。

 被爆者が政府に条約署名と批准を訴えるのは、原爆被害の苦しみを決して繰り返させたくないから。その思いが結集し、被爆建物や記録資料の保存運動が広島で盛り上がっている。

 市民団体「広島文学資料保全の会」の河口悠介さん(25)=東区=は、原爆文学資料を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶(世界記憶遺産)」に登録することを目指す活動に携わる。「被爆地選出の首相として、実現へ後押ししてもらいたい」

 「岸田氏は海外からも注目されている」と話すのは高垣慶太さん(19)=東京都新宿区=だ。崇徳高(西区)から早稲田大に進み、首都圏の若者グループ「KNOW NUKES TOKYO(ノーニュークストーキョー)」で活動。岸田氏が衆院本会議で所信表明演説に臨んだ8日、広島の事務所に「被爆国日本のU25による提言書」を送った。「ヒロシマの首相は条約を前に進めるんじゃないか、という声を聞く。世界の期待に応えてほしい」(桑島美帆、湯浅梨奈)

(2021年10月12日朝刊掲載)

年別アーカイブ