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はだしのゲン閲覧を制限 戦争考える機会奪う 被爆者ら憤りの声

 「はだしのゲン」の閲覧制限を小中学校に求めた松江市教委の対応に、被爆地広島の関係者や島根県の被爆者から憤りの声や疑問視する意見が出た。

 ゲンはことしで連載開始から40年を迎えた。昨年12月に73歳で亡くなった作者中沢啓治さんの妻ミサヨさん(70)は「言論統制をしていた戦時中のような判断」とショックを隠さない。「夫は戦争の悲惨さを伝えるため膨大な資料を調べた上で描いた。子どもたちが自由に考える機会を奪わないで」と話した。

 被爆者で体験証言を続ける島根県邑南町の河野頼人さん(82)も「こんな風潮が広がると、被爆の実態に触れることさえもはばかられるようになる」と懸念を示した。

 広島市教委は、小中高生を対象にした平和教育プログラムで小学3年向けの教材に採用。「命の尊さや家族の絆を伝える上でもふさわしい作品」とする。原爆資料館前館長の前田耕一郎さん(64)は「原爆だけではなく、戦争や平和を幅広い世代に分かりやすく伝える漫画。功績の大きさも考えてほしい」と話した。

 教育や芸術表現の観点から、松江市教委の対応を批判する声が聞かれた。広島大大学院教育学研究科の難波博孝教授(臨床国語教育)は「子どもの想像力や悲惨さを消化する力を信じるべきだ」。広島市立大芸術学部の加治屋健司准教授(現代美術史)は「授業で全員が読むのと違い、陳列なら見ない自由もある」と指摘する。

 一方、市民団体「平和と安全を求める被爆者たちの会」(安佐南区)の秀道広代表(56)は「残虐な場面を未発達な子どもに見せるのはよくない。天皇批判がある作品でもあり、閉架によって閲覧の優先度を下げたのは適切な対処だ」と評価した。

(2013年8月17日朝刊掲載)

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