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連載・特集

「がんす横丁」シリーズ がんす横丁 (二十三)カラコを買いにござった㊤

文・薄田太郎 え・福井芳郎

 あのころの広島の街角や、がんす横丁、そして小路で見かけた子供たちの遊戯のうちに「カラコ遊び」がある。このカラコ(唐子)は長崎から移入した広島言葉らしく、唐子は人形の意味で、この遊びには次のような童唄(わらべうた)がある。

 とん、とん、とん(戸を叩(たた) く表現)、
 どなた(誰か)、
 中の棚の七兵衛さん、
 何に買いにござった、
 カラコを買いにござった、
 何もんめで買やる(買うの かの意)

 と歌うと、一人の子供が「七もんめで買う」と言い、次から次へとカラコの値段をセリあげると、最後にはこれ以上はないという意味を表現するために、大手を高く拡(ひろ)げて「天ところ一パイ」と言う。この「てんところいっぱい」の言葉も、広島人には懐しい影絵を見るような言葉である。

 このカラコ遊びは「天ところ一パイ」で一応買い手と売り手の話し合いがつくと、カラコになった子供たちが一列に並んで、買手に腹の上を押えられて、それぞれ「キュウ」とか「ポン」とか泣き声を出す。やがて買手は一人のカラコを選んで「これを買います」と言う。ついで「近所へ買物に行きますから、カラコを預って下さい」と言って、カラコを売手に預ける。

 次にいろいろと言葉のやりとりがあって、やがて売手はカラコを逃がすと、買手はこれを追いかけてゆくという一種の鬼ごっこ遊びである。歌のはじめにある「中の棚の七兵衛さん」は東部の歌で、これが西部では「市のなかの長兵衛さん」と変っているのも面白い。

 また、下駄(げた)かくしの遊びには次のような歌がある。

 下駄がくしの豆よ、
 せせらと言われて、
 菜も葉もとくべ(とくべは 徳兵衛、徳兵衛と二度も繰 り返される)、
 まな板に包丁、
 梅干ちょっと来い

 と、いとも軽快な気持ちで歌ったことを思い出すが、この童唄も広島らしい独得(どくとく)のカラーがあった。

(2017年2月5日中国新聞セレクト掲載)

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