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はだしのゲン閲覧を制限 松江の小中学校 市教委が要請 「描写が過激」

 原爆の悲惨さを描いた漫画「はだしのゲン」の描写が過激であるとして、松江市教委が昨年12月、市内の小中学校に学校図書館での子どもの閲覧を制限し、貸し出しもやめるよう要請していたことが16日、分かった。出版物の表現の自由に行政が介入する異例の事態といえ、議論を呼びそうだ。(樋口浩二)

 「はだしのゲン」は、昨年12月に亡くなった広島市出身の漫画家中沢啓治さんの代表作。松江市教委が「子どもの発達上、悪影響を及ぼす」と判断したのは、汐文社(東京)発行の「はだしのゲン愛蔵版」1~10巻のうち、後半の6~10巻。中国大陸での旧日本軍の行動を描いたシーンでは、中国人女性の首を切ったり性的暴行を加えたりする場面があった。

 市教委によると、昨年12月に小学校全35校、中学校全17校を対象に開いた校長会で、本棚に置かず倉庫に収める「閉架」とするよう口頭で求めた。同時に、貸し出しもしないよう伝えた。作品を所有する各校は要請を受け入れ、閲覧を制限しているという。

 同市議会には昨年8月「子どもたちに間違った歴史認識を植え付ける」と主張する市民から、学校図書館からの撤去を求める陳情が提出されていた。だが市議会は同12月の本会議で、全会一致の不採択を決めていた。

 市教委の古川康徳副教育長は「歴史認識の問題ではなく、あくまで過激な描写が子どもにふさわしくないとの判断だ」と説明。「平和教育の教材としての価値は高いと思うが、要請を見直す考えはない」と話している。

 汐文社の政門一芳社長は「中沢さんは常々『原爆の悲惨さはどれだけ描いても描き切れない』と言っていた。子どもの自由な思考の機会を奪う判断には憤りを感じる」と話している。

はだしのゲン
 著者の中沢啓治さんが自身の被爆体験に基づいて描いた漫画。主人公の中岡元が原爆で家族を亡くしながら懸命に生き抜く姿を描く。これまでに単行本や絵本を含め計1千万部以上が出版され、英語やスペイン語など約20の言語に翻訳された。

(2013年8月17日朝刊掲載) 

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