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社説・コラム

天風録 『鳥の話』

 ノーベル文学賞の候補に挙がり始めた多和田葉子さんや小川洋子さんには、鳥への関心がほの見える。全米図書賞を得た多和田さんの「献灯使(けんとうし)」では、滅ぶ気配もある野鳥ハシビロコウが表紙絵だし、小川さんの「ことり」には鳥の言葉を解する男が出てくる▲この世の片隅でささやかに生きる存在を忘れず、耳を澄ませる。警告を発する「炭鉱のカナリア」たる表現者ならではの感性だろう。広島の名誉県民である彫刻家、亡き円鍔勝三(えんつば・かつぞう)さんも好んで鳥をモチーフにしていた▲そんな作品の数々が尾道市御調町の円鍔勝三彫刻美術館に並ぶ。題して特別展「鳥の話」。ハトにウズラ、ペンギン…。哲学者の趣もあるフクロウには、「あやかりたい」と思い入れが強かったらしい▲生きとし生けるものに心を寄せるのは、この列島に住む習いだった。一つの証しが広島にも伝わる民話「聞き耳頭巾」だろう。タイを助けたお礼の頭巾をかぶると野鳥たちの内輪話が聞こえ、それが幸せの種にもなる▲特別展の会場では、世間で厄介払いされがちなカラスを円鍔さんが花形扱いしている。自宅に居着いたのを面白がり、かわいがったという。頭巾でも忍ばせていたのだろうか。

(2021年10月17日朝刊掲載)

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