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社説・コラム

『想』 松尾康二(まつお・こうじ) 音楽は平和を運ぶ

 「オバマさん 戦争を廃絶してください」。わずかこれだけのメッセージを、新聞の1ページ全部を使って日本文と英文で訴えた広告に、皆さんはお気付きになっただろうか。今年5月27日の中国新聞。現職の米大統領として初めてオバマ氏が広島を訪れた日に、私が理事長を務めるNPO法人「音楽は平和を運ぶ」が出した広告である。戦争の廃絶―これは私たちNPO法人の究極の願いなのである。

 NPO法人を立ち上げたのは2年前。以後、「人の心に平和のとりでを築くコンサート」と銘打ち、大野和士さんを指揮者に迎えてベートーベンの第9交響曲を演奏するなど、演奏会を2度開いた。広島交響楽団の東京公演の協賛もしたほか、クラシック音楽を中心に文化活動への助成を行い、今年は週1回、ラジオ番組を提供している。

 広島は戦後一貫して、原爆の悲惨さを訴えてきた。平和記念公園の原爆慰霊碑に「過ちは繰返しませぬから」と刻まれているように、戦争という過ちを再び犯さないことは生き残った者の義務である。私自身も8歳の時、爆心地から1・6キロの地点で被爆し、崩れた建物の下敷きになりながら助け出された。だから、広島が戦争廃絶の義務を負うように、私もまた義務を負っていると思う。

 だが「被爆者の町」広島は近い将来、被爆者の消滅によって証言能力を失う。「悲しい記憶」が次の世代へ「恨みの連鎖」とともに引き継がれる懸念もある…。こう考えるうち、ひらめいたことがある。そうだ、これからは「平和であることは楽しい」というメッセージこそ重要ではないかと。こうして世代交代の節目ともいえる被爆70年を機に、広島を音楽の町にすることから始めたのだった。

 今年も10日、「人の心に平和のとりでを築くコンサート」を広島市中区の広島文化学園HBGホールで開く。音楽という世界共通語によって「平和であることは楽しい」とのメッセージを世界に届ける―。回り道に見えても、これは平和を実現する有力な手段だと私は確信している。(カルビー相談役)

(2016年7月6日朝刊掲載)

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