×

社説・コラム

『想』 蔵川瑠美(くらかわ・るみ) 音楽で平和を

 ずっと確信が持てなかった。「Music for Peace~音楽で平和を~」。広島交響楽団のキャッチフレーズだ。

 音楽には確かに、傷ついた人の心を癒やす力がある。それも広くとらえれば「平和への音楽」であると思う。けれど演奏することが果たしてどのように平和につながるのだろうかと。

 先日のオバマ米大統領の広島訪問の時、歴史的な瞬間に立ち会いたくて、私も平和記念公園の近くまで行った。厳重な警備と集まった人で、その姿を見ることはできなかったが、スピーチを終えて帰る車を見送ることができ、なんだか温かい気持ちになった。

 これだけ影響力のある立場の人が広島を訪れる決心をしてくれたことに、素直にありがとうと言いたかった。

 さまざまな意見があると思う。実際に原爆を経験していない私に、どこまで理解できるかは分からない。でも私は、罪なき人が傷つけられる悲しい歴史をストップする前進の一歩であることは間違いないと感じた。

 そして、おそらく自国では反対意見もあった中、広島に来てくれた大統領に敬意を、そして温かく迎えた広島の市民、日本の国民を誇りに思った。

 そして気がついた。広島は平和を求める地球の人全てに訪れてほしい場所なのだと。広島に来れば、どんな思想の人も「平和の尊さ」を痛感させられる。そんな場所が世界中にいくつあるだろう…。

 私たちは、大切な場所のオーケストラなのだ。私は広響のスローガンの意味を自分なりにもう一度考えてみた。各地で演奏を聴いてもらい、その名を広めることは、広島への関心、理解を深めることにつながるだろう。もちろん、いいかげんなことは許されない。演奏を高める努力を続け、真摯(しんし)に音楽に向かう姿勢でいなくてはいけない。

 「世界中の人に訪れてほしい街、広島。この地にふさわしいオーケストラだね」と言われたい。私の胸に新たな闘志が湧いている。(広島交響楽団コンサートミストレス)

(2016年6月16日中国新聞セレクト掲載)

年別アーカイブ