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社説・コラム

『想』 陣場健(じんば・たけし) 紙で想(おも)いをつなぐ

 「木野川(このがわ)」をご存じでしょうか。広島と山口の県境を流れている清流です。今は、長州山口の政治力が強く小瀬川(おぜがわ)という名前に変わってしまいましたが、やはり広島人の心の故郷は「木野川」です。

 江戸時代後期、良質の水に恵まれた木野川の流域には、多くの手すき和紙業者が軒を連ねていました。紙の名称は「木野川和紙」です。紙屋町(現広島市中区)で集荷され、江戸まで届けられていたものもあったようです。

 現在、広島市西区に構える当社の名はこの清流にちなんでいます。扱う商品は時代の要請を受けて変わりましたが、1941(昭和16)年の創業以来、地域代理店として「紙の地産地消」を生業(なりわい)にしています。

 紙の国内消費量はIT化の進展や人口減少の影響で漸減傾向が続き、紙卸売業者の数は25年の間に半減しました。紙の持つ温かな手触り感や目への優しさは、正倉院の文書のように千年以上たっても変わることはありません。

 人はITの進化に伴って、人間的な感性バランスを求めていきます。自然界からの恵みである紙を通じて、「紙から人へ想(おも)いを伝えられること」をさらに深掘りしたいと考えています。

 その先駆けとして、平和記念公園の原爆の子の像に世界中からささげられた折り鶴を、再生紙「平和おりひめ」としてよみがえらせることができました。折り鶴一つひとつに込められた平和への願いが、名刺や絵はがき、一筆箋、広島ブランドの箱などに生まれ変わって皆さまの手元に届き始めました。平和への想いを昇華して世界へ想いをつなぎ、また後世へと伝承していきたい。このような平和の循環リレーへの賛同者のおかげで、この5年間、多くの感動を日々いただき、やりがいを持って活動ができました。

 広島には、人の心の温かさが分かる会社にしか発見できない想いのニーズがあります。長年のご縁で育んだ人と人とのつながりを大切にし、今後も紙を通しての地域貢献に邁進(まいしん)してまいります。(木野川紙業社長)

(2016年4月15日中国新聞セレクト掲載)

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