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社説・コラム

『想』 中村靖富満(なかむら・やすふみ) 世界遺産登録20年

 ことしは厳島神社(廿日市市)が世界文化遺産に登録されて20年の節目の年を迎える。外国人観光客は昨年、21万人を超えて過去最多だった。2020年の東京オリンピックに向け、まだまだ増えると予測される。

 原爆ドームと合わせ、20キロ圏内に二つの世界遺産を擁する広島地域は、外国人観光客の大半が欧米人という特徴がある。宮島のミシュランの観光ガイド本の三つ星や、フランス・モンサンミッシェル市との提携なども追い風となっている。

 全国的には約7割がアジアから訪れ、旅の目的は買い物やテーマパーク、温泉である。広島地域には欧米人の感性をくすぐる特別な魅力があるのだろう。

 厳島神社の世界遺産価値の一つとして「日本の風土に根ざした宗教である神道の施設であり、仏教との混交と分離の歴史を示す文化遺産として、日本の宗教空間の特質を理解するうえで重要な根拠となる」とある。

 自然崇拝、山岳信仰という精神性のもとで神も仏も受け入れる日本特有の宗教観は、一神教の欧米人にとってとても興味深いだろう。弥山の深々とした緑を背景に、朱塗りの寝殿造り檜皮葺(ひわだぶき)の社殿群が海に浮かぶ。こうした世界でも類を見ない独特の景観は、その象徴といえる。

 その時々の為政者の庇護(ひご)を受け、大陸と交流、交易を重ねながら、国家の安寧や海上交通の安全を祈る守護神、海洋神としての性格も備えていった。近年は弥山に登る人も増えている。

 先日、福岡であった「ものがたり観光行動学会」のシンポジウムに参加した。九州では「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」(福岡県)が世界遺産の国内候補となっている。宗像大社は、厳島神社と同じ天照大神の三女神が辺津宮、中津宮、沖津宮にそれぞれ祭られている。宗像でも海の旅の安全を、三女神に託したのであろう。

 私たちは長年、自然環境と文化財の保全と観光に力を入れてきた。宗像との連携を模索し、新しい時代に合った地域づくりを目指したい。(宮島観光協会会長)

(2016年2月24日中国新聞セレクト掲載)

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