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社説・コラム

『想』 原田秀昭(はらだ・ひであき) 広島でつながる心

 「皆さん、人生は一度しかありません。人それぞれの生き方があります。皆さんは、今自分がどんな生き方をするのか、考える時期にきているのです」。国泰寺高(広島市中区)の恩師はそう言った。「志」。そんな言葉が私の頭によぎった。

 高校卒業後、神戸市の外国語大に進み、米国に1年間留学した。原爆が投下された街に生まれた私なりに、「国際平和」という思いがあったからだ。パナソニックでは英国5年、米国8年と海外勤務を経験した。ビジネス、プライベートを問わず、出生地を聞かれたときは、広島の話をした。原爆ですべて失われた街が、人々の努力によって復興、緑と川に囲まれた美しい街になったと。

 広島から出た人は特にそう感じているかもしれないが、私は広島による「心のつながり」を大切にしたい。広島以外の球場での広島東洋カープの応援、その団結力。普段広島弁を話せない場所で広島人同士が交わす広島弁。国内外を問わず、故郷をつまみにして堪能する広島のおいしいお酒。人生苦しいことやつらいことがあっても、広島は私の心を癒やしてくれる。

 最近、会社では、年配層と若者層が職場で話がかみ合わないといわれている。部下へ厳しく指導すること自体が、もう昭和のものになりつつある。私は「部下に寄り添う、一緒になって解決する。そして応援し、見守る」。この言葉が好きだ。

 この言葉は、私の部下から頂いた。今の若い世代は、まずは「心のつながり」を大切にする。そして本当に信頼する上司を見て、自分のキャリアアップを考える。そういう時代なのだ。

 ことしのお盆に、私は大阪から家族で広島に帰省した。私の中学3年生になる息子と、男2人で3日連続、広島のお好み焼きを食べた。お好み焼きが鉄板で調理されているのをじっと見詰めていた私の息子が、ぼそっと私に言った。「お父さん、今度家で、僕が広島のお好み焼き作るわ」。ここでも親子の心のつながりが深まった。(パナソニック本社経営企画部長)

(2015年11月5日中国新聞セレクト掲載)

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