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社説・コラム

『想』 奥田小由女(おくだ・さゆめ) 美に迫る新たな一歩

 新緑の美しい4月下旬、三次市の奥田元宋・小由女美術館で開幕した10周年記念「川合玉堂展」に出掛けました。美術館が開館して10年も多くの方に支えられ育てられたことを思うと、感慨無量のものが胸に迫りました。

 玉堂・児玉希望・元宋は三代の師弟の系譜にあり、特に玉堂先生は文化勲章を受け、宮中歌会始の召人にも選ばれ、元宋も同じ道を歩ませていただきました。川合玉堂展は日本の自然が格調高く美しく描かれ、作品70点は見応えのあるものでした。

 元宋も私も日展理事長を務めました。元宋の時代は良かったのですが、私の方は副理事長・事務局長を務めている時、突然の過激な新聞報道を受けて日展は一気に火が燃え広がった感じで、マスコミのすさまじさは言葉にできないものがありました。100年を超す歴史を誇る5科ある総合美術団体の日展にこれほど激震が襲ったのは初めての出来事でした。

 日展の大改革の最中に私は理事長に選ばれ、開かれた日展に生まれ変わろうと名称も新たに改組新第1回日展を開催しました。この改組日展に至るまで厳しく苦しい時が流れましたが、うれしかったのは、日展作家がつらい目に遭っても作家としての誇りや精神は変わることなく精いっぱいの作品で応えようとする熱意を感じたことです。そのとき私は、よりよい日展に生まれ変われると確信しました。

 その後、日展は京都、名古屋、大阪、福岡、富山と巡回展を開きました。最後の会場の富山日展では新幹線開通に合わせて会場もリニューアルされ、「美に迫る新たな一歩」と高く評価して迎えられました。今までの苦労が報われる思いで日展は再び輝くことを誓いました。

 私は広島県出身の戦前生まれで原爆のことは頭から離れず、平和を祈って制作しています。世界中からなぜ戦争がなくならないのか。人間愛のある社会をつくるため芸術文化が今こそ力を尽くし、未来を背負う子供たちに美と夢を生み出す力を伝えたいと願っています。(日展理事長・人形作家)

(2015年6月2日中国新聞セレクト掲載)

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