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社説・コラム

社説 衆院選スタート 未来託せる1票どこへ

 第49回衆院選はきのう公示され、31日の投開票に向け、選挙戦がスタートした。与野党9党が新型コロナウイルス対策や経済政策などを争点に、論戦を繰り広げる。

 任期満了を越えての選挙である。この4年間には、首相が2度代わり、今月には岸田文雄首相が誕生した。安倍晋三氏、菅菅義偉氏、岸田氏と続く自民・公明両党による政権運営に、審判を下す選挙とも言えよう。

コロナ下の選択

 今回野党は立憲民主、共産両党を中心とした5党の共闘が進み、289小選挙区のうち210超の選挙区で候補者を一本化している。有権者は各党各候補の主張を吟味する必要がある。

 新型コロナウイルス禍の下で、初めて行われる総選挙でもある。私たちは新型コロナの感染拡大を通じて、政治のありようが暮らしや命を直撃すると実感したはずだ。

 感染の拡大期には、首都圏などで病院に入院できずに自宅で亡くなる感染者が相次ぎ、地方でも患者を受け入れる病床が逼迫(ひっぱく)するなど「医療崩壊」の危機に直面した。緊急事態宣言、一斉休校、休業要請といった政策のしわ寄せは非正規雇用者やひとり親家庭、子どもたちへと及んでいる。

 医療体制や生活支援策は十分だったのか―。これまでの政策を踏まえ、今後にどう備えるのか。傷ついた経済や国民生活をどう立て直すのか。難局を打ち破る政策論戦に期待したい。

各党「分配」競う

 経済格差をなくすための再分配を、各党が掲げているのも、今回の衆院選の特徴ではないか。公示の前日にあった党首討論では、各党が分配の必要性を口にしていた。しかし具体策や財源などについては明言を避ける場面も目立った。

 財源を国債発行に依存するなら将来の負担は避けられず、若い世代の不安は増大するばかりだ。各党は選挙向けに耳当たりの良い言葉を並べるばかりのでなく、未来への責任をしっかりと果たせる説得力のある政策を示し、有権者に問うべきだ。

 岸田首相はきのう、福島市での第一声で「成長の果実を分配する。所得を引き上げる経済対策を行う」とし、今回の衆院選を「未来選択選挙だ」とした。

 よりよい未来にするためには、現在も過去もうやむやにはできない。岸田首相自身も、安倍・菅両政権について、「経済をはじめ、さまざまな功罪はある」とした上で、「コロナ禍という国難の中で政治と国民の心が離れてしまったことが、民主主義の危機だ」との認識を示していた。

 ならば、長期政権が生んだ森友学園を巡る公文書改ざん問題や数々の「政治とカネ」問題についても、しっかり議論してほしい。過去を清算し、「未来」につながねばならない。それには、未来を担う若い世代が投票で声を届ける必要があろう。

上がらぬ投票率

 ところが若い世代の低投票率が続いている。30歳代の衆院選の投票率は、1993年に70%を切って以来低迷し、前回、前々回は40%台前半まで落ち込んでいる。20歳代は過去2回いずれも30%台だ。2016年の参院選からは「18歳選挙権」が導入されたが、18、19歳の投票率は国政選挙のたびに下がっている。

 私たちの周りには課題があふれている。公示日のきのうは北朝鮮がミサイルを発射した。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)とみられている。覇権主義を強める中国との関係も含め、東アジアの平和と安定をどう築くのか。安全保障や核なき世界の実現に、各党がどう向き合うかにも目を凝らしたい。

 ほかにも少子高齢化やジェンダー格差の是正など、未来に先送りできない問題は山積みだ。生きやすくするためには何が必要か、子や孫の世代にどんな社会を残すのか、未来に向けた物差しで投票先を熟考しよう。

 有権者が等しく投票できる選挙は民主主義の大本である。日本の針路を決めるのは主権者たる国民一人一人である。私たちは1票を投じることで意思表示せねばならない。

(2021年10月20日朝刊掲載)

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