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連載・特集

「がんす横丁」シリーズ がんす横丁 (四十三)新天地こぼれ話(その2)㊤

文・薄田太郎 え・福井芳郎

 新天座のコケラ落しは大正十年九月七日で、帝キネ専属の大井新太郎一座の御乗込みが華々しく行われた。弁護士通りに面した劇場の屋根の上には、大男七、八人が持ち上げた鬼瓦のような、真黒い大瓦がすえてあったのも忘れられない。

 お目見得の演(だ)し物は「船長の妻」で、この劇のヒロインには女形、関真佐男が扮(ふん)して座長をたすけた。この大阪芦辺劇場の引越興行は、そのころ好評を博していた連鎖劇をそのまま広島に移したものである。

 この連鎖劇という劇型式は、実演と活動写真をつないだもので、活動写真はモッパラ登場人物の追っかけをフィルムに収めて映写し、それを舞台に継いだものである。

 たとえば悪人が子供を誘かいして逃げる。そこでピリッと笛を吹いて舞台が暗くなると映写幕が下されて、スクリーンにはさっきの子供を抱え込んだ悪人が山の中を逃げてゆく。その後を追う子供の親たちが映る。

 さらにこの追跡は海岸づたいに転回される。大船の置いてある江波海岸で、子供を取り返そうとする父親や近所の人たちの追っかけ合いが繰り返され、結局、悪人が捕えられたところで写真は消えて、舞台は活動写真そのままの装置で、登場人物が活人画のように所定の位置について劇が進行される。

 これが舞台と活動写真をつないだ演出で、文字どおり連鎖劇といわれたものである。

 大井新太郎一座の次は、女形の久保田清の一座、「鳶(とび)姿」や「勇み肌」で当てた熊谷武雄、改良演劇以来の木村猛夫、伊村義雄、山田九州男、静間小次郎、小織桂一郎、秋山十郎、福井茂兵衛、伏見三郎、福島清、武村新。女形では、秋元菊弥、小栗義雄、女優では木下八百子、守住菊子などが次から次へと新天座の舞台を飾った。

 なかでも熊谷武雄は花柳界からのヒイキも絶対であったが、軍事劇を上演しても十一連隊や、七十一連隊の総見という人気であった。

 一座の色男役、波多譲が悪役を買って、座長の熊谷にこん棒で撲(なぐ)られる場面は物すごい写実振りを見せた。この軍事劇は半カ月もつづけられ、作者も広島人であったように想(おも)う。

(2017年12月3日中国新聞セレクト掲載)

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