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社説・コラム

『記者縦横』 「聞く力」で何を導くか

■東京支社 桑原正敏

 最近、永田町かいわいでよく耳にする「聞く力」。政界とは全く別の分野で活躍する2人から学ぶ機会を得た。

 広島市中区出身の世界的なバレリーナ森下洋子さんと、幼少の一時期に同区で暮らした作家・エッセイスト阿川佐和子さん。森下さんの舞踊歴70年を記念した広島公演に先駆け、東京都内で対談をしてもらった。

 阿川さんは週刊誌で連載する名物対談をほうふつとさせる軽妙な語り口で、森下さんから新型コロナウイルス下の舞台芸術の現状を聞き出していく。

 手元のメモを読み続けるような、機械的な問い掛けはしない。森下さんの公演に感動して涙したり、作家の父弘之さんの知人から被爆者の思いを紹介したり。話の流れに自らの体験をさりげなく重ねて真意を尋ねる。バレエに懸ける情熱や平和を舞台で表現する使命感を語る森下さんの口調は熱を帯びた。

 森下さんも世界的な名手とバレエ論議を深めた思い出を振り返り、「聞く力」の大切さを説いた。助言をまずは受け止めて、必要なものだけを選んで修正していく。そんな信念を長年貫いてきた。

 相手の魅力を引き出して読者に届ける。自らを磨き上げる材料を見いだして観客に感動を与える。2人の「聞く力」はプロの仕事なのだ。政界は衆院選の真っただ中。候補者は、有権者の声を聞いた先に何を導き出し、国のかじ取りにつなげるのか。よくよく見ておかなければならない。

(2021年10月22日朝刊掲載)

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