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社説・コラム

社説 ’21衆院選 安全保障 専守防衛の理念を貫け

 覇権主義を強める中国が台湾を武力で威圧し、北朝鮮が弾道ミサイルの発射を繰り返すなど、東アジアの安全保障環境が厳しさを増している。米中対立が激化する中、日本はいかに地域の平和と安定を維持していくのか。衆院選で大きく問われるところだ。

 与野党の多くは、日米同盟を安保政策の基軸とする点で大きな変わりはない。その中で日本がどんな役割を担うのかを巡って、議論が分かれる。  安倍晋三政権は2014年、集団的自衛権の行使の憲法解釈を一方的に変更。これを踏まえて翌年には、安全保障関連法を成立させた。自衛隊活動の地理的な制限はなくなり、後方支援に限られるが、世界各地で他国軍との行動が可能になった。

 ただ日本は専守防衛が原則である。米軍に追従する、やみくもな軍備増強は許されない。日本の立場を踏まえた安保政策を各党は国民に分かりやすく示さなくてはならない。

 際立つのは「国防力の強化」を打ち出した自民党の前のめりぶりだ。衆院選の公約と合わせて示した政策集には、対国内総生産(GDP)比で「2%以上も念頭に防衛関係費の増額を目指す」と明記した。

 歴代政権がおおむね1%以内に抑えてきた枠を2倍以上に増やすことを目指す。アジア諸国にも不安と緊張を増幅させかねない。なぜ大幅増が必要なのか。今回の選挙戦でしっかりした説明が欠かせない。

 北朝鮮のミサイル発射を受けて、自民党総裁の岸田文雄首相は相手国の領域内でミサイル発射基地を攻撃する敵基地攻撃能力について「保有を含めて検討する」と表明。国家安全保障戦略も改定する方針を示す。

 北朝鮮が衆院選公示日に発射したのは、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)とみられている。発射の兆候が分かりにくいとされ、敵基地への攻撃は極めて困難になるとの指摘もある。

 連立相手の公明党の山口那津男代表は敵基地攻撃能力について「古い議論だ」と否定的だ。連立政権としての整合性も問われる。

 立憲民主党の枝野幸男代表は「現実的ではない」と敵基地攻撃能力を否定し、集団的自衛権行使の廃止などを主張する。国民民主党も専守防衛に徹し、自衛隊予算は不断に見直す方針だ。共産党や社民党は安保関連法の廃止を訴えている。

 日本維新の会はGDP1%枠撤廃や敵基地攻撃能力の検討も公約に盛り自民党と近い。各党がどんな主張に重点を置いているのか、有権者もしっかり見極めねばならない。

 米中の対立は先鋭化する一方だ。宇宙空間を利用した新型核兵器の実験に中国が成功したと伝えられた。安保問題の課題は宇宙やサイバー空間にも広がりつつある。

 台湾海峡の緊張が高まる中、米国が同盟国の日本に新たな軍事的役割を求めてくることもあろう。米国追従の対応だけでは日本も標的になりかねない。

 北朝鮮をはじめ、北方領土問題を抱えるロシアや従軍慰安婦問題などで対立する韓国への目配りも必要だろう。日米同盟の枠組みを維持しながら東アジアや世界の秩序をどう実現していくのか。各党は具体的な理念と戦略を有権者に示すべきだ。

(2021年10月22日朝刊掲載)

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