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アフガン人元留学生の退避支援を 市民団体が尽力 資金面に壁

山口大 対応「予定ない」

 イスラム主義組織タリバンが実権を握ったアフガニスタンにいる山口大(山口市)の元留学生を救おうと、山口市の市民団体が支援に乗り出した。日本に呼び戻すためビザの取得を目指しているが、資金面などハードルが高い。なかなか協力を得られない山口大に対し、近く支援を申し入れる。(山下美波)

 「殺されるかもしれない。ビザを発給してほしい」。8月15日にタリバンが首都カブールを制圧後、現地の元留学生から山口県国際交流協会の岡孝則さん(67)のフェイスブックにメッセージが届いた。日本で教育を受けたことが迫害の一因とみられる。

 メッセージを受け、岡さんがアドバイザーを務める市民団体「国際交流ひらかわの風の会」は、山口大に対応を求めた。しかし大学側からは「支援の予定はない」と言われ続けてきたという。同大広報室は中国新聞の取材に「状況を見守っている」と答えた。

 風の会は山口大周辺の住民たちでつくり、留学生と地域住民のパイプ役としてアフガニスタン人約10人を含む留学生と稲刈りや盆踊りで交流してきた。岡さんは「優秀な人材ばかり。大学が研究員などで雇えば官舎も使え、その後の就職も支援できる」と訴える。

 事態が動かないため、同会は今月中旬、最初に助けを求めてきた元留学生1人のビザを取得しようと、身元保証人になると決めた。ただ外務省によると、渡航費や滞在費を全額負担する必要がある。岡さんは「大学側の人員や予算の事情も分かるが、人道的に考えて少しでも動いてほしい。一民間にやらせるのは恥ずかしい話」と憤る。

 中国地方の他大学には支援の動きがある。広島大(東広島市)は8月下旬、学内に特別対策室を設けた。ビザ申請や宿舎の確保、就職を支援する。同室は「出国が難しく受け入れはまだゼロだが、大学として最大限の支援をしたい」とする。島根大(松江市)も学内で短期雇用するなど支援策を練っている。主導する生物資源科学部の増永二之教授(土壌学)は「困っている教え子を救いたい」と話す。

 風の会は近く山口大に対し、他の国立大と連携して行動を起こすよう求める要望書を山口市議たちと提出する。協力する山口市の会社員有永浩太郎さん(53)はアフガニスタン人留学生に空手を教えてきた。「一緒に汗を流した仲間を救いたい。山口大の予算が厳しいなら、文部科学省や外務省に支援を求めるなど、できることを探ってほしい」と望んでいる。

「生きる希望すらない」 身潜め暮らす2人

 有永浩太郎さんのつてをたどって、中国新聞は日本に留学経験があるアフガニスタン人の男性2人とインターネット上で接触した。2人は「現状を伝えることで支援につながれば」と、英文のやりとりで取材に応じた。身を潜めてアフガニスタンで暮らしており、日本への退避を望んでいる。

 「タリバンが実権を握った後、仕事はなくなり、自由に外出もできなくなった。銀行口座を凍結され、家族を養えない」。地方に住む男性は日本で高度教育を受け、帰国後は自治体の要職に就いていたため、拷問を受ける可能性があると恐れる。「日本で学んだ知識や技術を母国の発展に生かそうと働いていたが、今は生きる希望すらない」

 もう一人も帰国後、職を失い、1年以上タリバンに誘拐された。民主主義や女性の権利を重んじる留学経験者は敵と見なされるという。毎日のように崩壊した政権の職員が暗殺され、街中や農村では過激派組織「イスラム国」(IS)の自爆テロや爆撃があると伝える。娘の写真を示し「殺されたくないし娘を学校に行かせたい。おびえず平和に生きたい」とつづった。

 2人は求める。「これまで日本政府や日本人はアフガニスタン人を助けてくれた。今の状況から抜け出すために、もう一度手を差し伸べてほしい」(山下美波)

(2021年10月22日朝刊掲載)

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