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社説・コラム

『書評』 郷土の本 「軍港都市の一五〇年」 海軍ゆかりの街 変遷を読み解く

 「旧海軍鎮守府」のまちとして2016年、日本遺産に認定された呉、神奈川県横須賀、京都府舞鶴、長崎県佐世保の4市の歴史をたどる「軍港都市の一五〇年」が刊行された。著者は京都府立大准教授の上杉和央さん。歴史地理学の観点から「海軍ゆかりの街」の変遷を読み解く。

 明治時代、陸軍が既存の市街地に駐屯地を置いたのに対し、海軍は新たな場所に鎮守府・海軍工廠(こうしょう)を築いた。本書は4市の「新興都市」としての成り立ちに着目。人口・戸数の統計資料や当時の出版物、絵はがきなどを基に、4市の誕生から戦後復興までを通観し、そこに働き、暮らした人々の姿を浮かび上がらせる。

 なかでも呉は急速な発展を遂げ、大いににぎわったが、空襲で壊滅的になった。戦後、4市は「平和産業港湾都市」を掲げ、軍需産業や軍用地を民間に転用することで復興をとげた。「軍港都市の歴史は一見断絶しているが、実は戦後も連続している」と上杉さん。赤れんがの景観や海軍を冠したご当地グルメなどにも連続性を見て取る。

 軍艦を少女に見立てたゲームが流行し、若者が「海軍」というワードを気軽に口にする現在。上杉さんは「戦争の記憶が薄れる中、歴史から目をそらさない姿勢が求められる」と本書に込めた思いを語る。

 吉川弘文館。2090円。(西村文)

(2021年10月25日朝刊掲載)

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