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社説・コラム

[被爆75年 世界の報道を振り返る] 中国 コロナ・対米で関心薄く

核政策の裏 癒えぬ記憶も

■藤原優美 広島市立大講師

 中国の各紙を見ると、昨年の被爆75年に関連した記事は数少ない、またはゼロだった。そこにはいくつかの理由がある。

 2020年は全世界が新型コロナウイルス感染に直面していたため、関連ニュースが紙面のほとんどを占めた。「広島・原爆」は人類史上の重要課題の一つではあっても、自分自身および周りの人の命に関わる問題が最大の関心事となった。

 昨年は米中関係が悪化しつつあり、双方の総領事館の閉鎖、トランプ政権による中国政府批判、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)や動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を巡る難題が次々と現れた。新聞報道は自然とそれらに傾いた。

 しかし、わずかな記事から重要な情報を読み取ることはできる。中国政府が公式表明している「核兵器の全面禁止と廃絶」「核兵器の先制不使用」といった政策について、各紙記事はほとんど一致。核戦争に対する懸念も記事を通してうかがえた。

 一方でそれらの記事は、「広島と長崎の悲劇を繰り返してはならない」という見解とともに「日本が犯した罪を忘れることはない」という点も明確に示す。日本政府は真面目に反省し、原爆が投下された歴史背景なども日本国民に紹介すべきだ、との認識が表明されている。

 人々の戦争に対する記憶は、日中間で違う。戦争で苦しんだ経験ゆえに、中国人は広島のすさまじい被害やその後も長年続く放射線の健康影響などについて理解し、犠牲者の冥福を祈ることができる。一方で、日本軍による「南京大虐殺」「重慶大空襲」「七三一細菌部隊」「慰安婦」などの戦争の記憶はいまだに癒えず残っている。そういった中国の核政策や中国人の原爆被害に対する認識・見解などが、記事内容や表現に影響を与えている可能性がある。

 中国と日本は「一衣帯水」の隣国であり、2千年以上の交流の歴史もある。グローバル化が進む今日、中国と日本、他の国や地域に関するさまざまな情報が飛び交うが、中には後ろ向きな内容もある。一人一人がどう理解し、自分の中で消化するのかが問われる。物事の多面性を念頭に、より広く、客観的に判断することが求められるだろう。

(2021年10月25日朝刊掲載)

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