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[地域の明日 2021衆院選] 岩国基地軍事拠点化 騒音や事故 不安広がる

「さらなる負担」指摘も

 空母艦載機の移転で極東最大級の航空基地になった米軍岩国基地(岩国市)で、港湾施設の利用が活発になっている。背景には海洋進出を強める中国やミサイル開発を進める北朝鮮をけん制する狙いがあるとみられる。戦闘機の訓練も激しくなり、近隣だけでなく、西中国山地の住民にも騒音や事故への不安が広がっている。

 全長248メートル、艦首から艦尾まで平らな甲板を持つ海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」が5日、岩国基地内の港にゆっくりと着岸した。前月末に続く寄港は基地所属の米海兵隊ステルス戦闘機F35Bとの発着試験を終え、人員と資材を降ろすためだった。

中国への抑止力

 「第2次世界大戦以来の日本の空母から、米軍機が初飛行」―。翌6日、米軍の準機関紙星条旗新聞の軍事欄トップには刺激的な見出しが躍った。日本政府は戦力不保持を定めた憲法9条の下、戦闘機を機動的に展開する「攻撃型空母」の保有を認めていない。それでも記事は、米側がこの護衛艦を空母と位置付け、米軍機との相互運用に期待していることを示した。

 元自衛隊陸将で国際大の山口昇教授(安全保障)は「中国に対し、いつでも米軍機をいずもに搭載できるというアピールは大きな抑止力になる」と発着試験の意義を説く。

 「広島湾が一大軍事要塞(ようさい)になる」。事実上の空母入港という初の事態に、基地の機能強化に反対する市民団体は即座に抗議した。「瀬戸内海の静かな環境を守る住民ネットワーク」の久米慶典顧問は海上自衛隊呉基地(呉市)を拠点とする護衛艦「かが」も近く空母化されるのを踏まえ、ため息をつく。

 岩国基地は2010年に滑走路を沖合に移設して以降、急速に軍事拠点化が進む。移設の工事で3~7メートル程度だった港湾の水深を13メートルとした影響で、特にことしに入って大型艦船の入港が目立つ。国は従来「補給物資の荷揚げが目的」としてきたが、陸上自衛隊の輸送機オスプレイや米陸軍のAH64アパッチ攻撃ヘリコプターの陸揚げも相次いでいる。

 いずもが岩国に寄港した5日夕、益田市の萩・石見空港にごう音が響いた。いずもに発着艦したのと同型の岩国基地所属の2機が「燃料切れ」を理由に緊急着陸。空港近くの公園には住民20~30人が集まり、パトカーも出動する騒ぎとなった。

過去最多ペース

 米軍機の訓練区域がある浜田市旭町では70デシベル以上の騒音が国の測定で20年度に728回を数え、通年の記録が残る14年度以降で2番目に多かった。21年度は9月までの半年で既に663回と過去最多のペースで増えている。小中学校のテストや東日本大震災10年の黙とうの際に騒音が響く弊害も出ている。

 「有事の時には空港が攻撃対象になるのではないか」。萩・石見空港近くの自治会長、都野守政人さん(71)は不安を募らせる。

 衆院選では安全保障と基地負担の在り方も争点の一つになっている。基地の監視を続ける市民団体リムピースの頼(らい)和太郎編集長は「岩国は港と滑走路がセットになった唯一の在日米軍基地。米軍にとって最も使いやすく、中国との緊張が高まる中で今後さらに負担を求められる可能性もある」と指摘する。(永山啓一、松島岳人、下高充生)

(2021年10月26日朝刊掲載)

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