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社説・コラム

社説 岸田政権勝利 真の評価はこれからだ

 4年ぶりの衆院選がきのう投開票され、連立を組む自民、公明両党が絶対安全多数となる議席を確保した。就任間もない岸田文雄首相が示した与党の目標を上回り、岸田政権の勝利となった。

 ただ、自民党だけで6割を超す議席を得た2012、14、17年ほどの大勝とはならなかった。議席を減らしたのは、安倍・菅政権で際立った「1強」のおごりに対する根強い批判の表れだろう。

見えないカラー

 岸田首相は、国民への説明を尽くさずに政治不信を招いた安倍・菅路線の転換を期待させる言葉を発しながら、行動は伴っていなかった。そのため、選挙直前に政権の「顔」が代わったものの、有権者の厳しい審判をかわしきれなかった。政権批判票が分散しないよう実現させた野党共闘も、一定の成果を上げたと言えそうだ。

 今回の衆院選は組閣から10日で解散、それから17日で投開票と、どちらも戦後最短となった。慌ただしい日程のため、有権者にとっては岸田政権を評価する時間が足りなかったかもしれない。直面する二つの大きな課題への政権の対応が不透明なことも、評価の難しさに影響しているようだ。

 課題の一つは政治姿勢である。1強のおごりをどう払拭(ふっしょく)するか、問われている。もう一つは、政策面で見えてこない独自カラーをいかに具体化するか、である。これらの課題にどう向き合うかを見てからしか、岸田政権を真に評価することはできないのではないか。

カネの疑念残る

 政治姿勢に関しては菅義偉前首相を反面教師にしているようだ。例えば、会見などで質問の趣旨に沿った答えをしようと努めていることだ。ところが、国会軽視は引き継いでしまったのか。所信表明と代表質問の後、予算委員会を開いて論議を深めるよう野党は求めていた。一問一答方式で論戦を繰り広げれば論点が明確になり、説明を尽くすことにもつながる。しかし岸田首相が選んだのは、解散と衆院選の前倒しだった。

 政治とカネの問題も残ったままだ。お膝元の広島で、おととしの参院選を舞台に当時の自民党衆院議員と妻が大規模買収事件を起こした。有罪は確定したが、党本部から提供された破格の1億5千万円が買収の引き金になったのではないかとの疑念は拭い切れていない。関連するカネの流れを全て明らかにする責任は今、党のトップに立った岸田氏にかかっている。

 独自カラーの発揮も岸田政権の評価には欠かせない。例えば、所信表明演説で訴えていた新しい資本主義は、実現に向けた有識者会議がようやくスタートした。具体策は今後詰めることになる。

参加決断すべき

 安倍政権が旗を振った経済政策アベノミクスの検証も必要だ。首都圏や富裕層が潤えば、いずれ地方や低所得者層にも恩恵がある。そんなトリクルダウンは期待外れに終わった。コロナ禍で、格差が広がっている現実も浮き彫りになった。令和版所得倍増や、金融所得課税の見直しなど、岸田首相が唱えていた分配に軸足を置いた経済政策の具体化が急がれる。

 「ライフワーク」と首相自身が位置付ける核兵器廃絶についても本気度を早く見せてほしい。核兵器の使用はもちろん、保有や威嚇まで禁じる核兵器禁止条約が今年発効した。被爆者が長年訴えてきたことが国際ルールとなったのである。それを追い風にするためにも、岸田首相はまず来年春に開かれる締約国会議へのオブザーバー参加を決断すべきだ。被爆国の責務を果たすことにもなるはずだ。

 政治姿勢と岸田カラー。首相が直面する二つの課題に通底するのは、安倍・菅路線との距離の取り方だ。これまでの反省の上で、より国民の声に沿った政治を目指すのか。それとも従来通り党内の実力者の声に耳を傾けるのか。岸田政権の振る舞いに、私たちは目を凝らし続けなければならない。

(2021年11月1日朝刊掲載)

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