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連載・特集

「がんす横丁」シリーズ 續がんす横丁 (九)播磨屋町(その3)㊦

文・薄田太郎 え・福井芳郎

 本通りとか、八丁堀の映画街に知人の多かった増田健夫君だけに、今日でも広島夜話に「マスケン」の名前が出てくる程である。闘病生活をつづけた彼だったが、新天座での文楽座引越には文五郎、先代栄三の人形振りを、太田洋子とともに肩を並べて、たのしそうにみていた一コマもあった。

 そのかみの播磨屋町の喫茶店「桃源」が街のオアシスと広島人に親しまれたことから、かくは室木豊治君、増田健夫君の思い出をつづった次第である。

 この店に現われた近代座の五月信子やミス・ニッポン探しに広島に来た藤田嗣治画伯も連日この店でとぐろを巻いていた。和服姿の九旅団長土肥原賢次氏が本ブラの途中、ステッキを振り振りこの店に現われて、特製パンと取組んでいた姿も思い出される。シュークリーム好きの林銑十郎大将が、土肥原少将の肝いりでか特命検閲使の定宿大手町三丁目の吉川旅館に運ばせて、広島を見直させたという話もある。

 以下、例によって昭和十六年ごろの同町の軒並みを書いてみよう。北側の東から三和銀行広島支店、山本靴店、昭和生命支店、げんきん屋呉服店、川口屋食料品店、山田金物店、隣りの小路を隔ててゑり新半襟店、林金誠堂眼鏡店、きぐまや小間物化粧品店、中山楽器店、丸高子供百貨店、森井呉服店、(一軒不明)、奥本金物店、野村薬品店、大辻呉服店、脇田かもじ店、ムライ洋品店、日本徴兵支店で、隣りは研屋町入口。

 また南側は中町入口の角、東から金明堂カステーラ店、吉井石鹸(せっけん)化粧品店、但馬屋カバン店、高田屋和洋雑貨キショウ店、ゑり新半襟店、梶山雑貨店、有江萬年筆店、(一軒不明)、ライト眼鏡店、赤松薬局、正本翠香園茶舗、八百金乾物店、桃源喫茶店、山崎紙店、共力洋服店、多山綿布本店、佐久間小間物化粧品店、トモヤ洋反物店、金光陶器本店、渡辺銅器店、隣りは袋町入口という順であった。

 この連載は、1953(昭和28)年7月から9月にかけて中国新聞夕刊に掲載した「続がんす横丁」(第1部)の復刻です。旧漢字は新漢字とし、読みにくい箇所にルビを付けました。表現は原則として当時のままとしています。

(2019年6月2日中国新聞セレクト掲載)

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