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社説・コラム

天風録 『平和文化月間』

 広島の平和記念公園に修学旅行生たちが戻ってきた。手向けの折り鶴がいっとき途切れた「教師と子どもの碑」も彩りを増している。千羽鶴の束には以前の年の添え書きも見える。コロナ禍にたたられた卒業生の分なのだろう▲「原爆の子の像」から鐘の音が鳴り響く。脇のバラ園では〈アンネフランクの形見〉と名付けられた株の列に4個、つぼみが色づきだした。旅心を誘われ、陽光に花が輝く秋本番である▲広島市はことし、11月を平和文化月間と銘打った。広報紙によると、一人一人が日常生活で平和について考え、行動する「平和文化」を醸成するためだという▲幕開け講演に訪れたイラン出身の俳優サヘル・ローズさんはバラの愛好家。翌日、バラの育種に打ち込む92歳の田頭数蔵(かずぞう)さんを廿日市へ訪ね、その動画が本紙サイト上にある。被爆体験に耳を澄ます心根には打たれる▲旅行や折り鶴、花…。文化には、思想信条の違いや国家の別といった垣根を越える力がこもる。冒頭の碑は被爆歌人の一首を台座裏に刻んでいる。〈太き骨は先生ならむそのそばに小さきあたまの骨あつまれり〉。何をおいても命を貴ぶ。平和文化とは、その思いに尽きる気もする。

(2021年11月4日朝刊掲載)

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