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首相、年内にも訪米意向 初の外遊 「非常に良い形」

 岸田文雄首相(広島1区)は3日、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の首脳級会合出席のため訪問していた英国から帰国した。羽田行きの政府専用機に乗り込む前、報道陣に対し、「対面での首脳会合は非常に良い形でスタートできた」と就任後初の外遊の成果を語った。現地でのバイデン米大統領との短時間の会談で、早ければ年内にも訪米して首脳会談を開くことで一致したことも明かした。

 外相を約4年8カ月務めた経験を生かして外交で成果を積み上げたい考えで、その柱に据える日米同盟はバイデン氏との信頼関係の構築を重視していく形だ。

 首相は英北部グラスゴーで開催されたCOP26首脳級会合に合わせて各国首脳や国連のグテレス事務総長と相次いで個別に会談した。ベトナムのファム・ミン・チン首相との会談では、中国を念頭に東・南シナ海での一方的な現状変更の試みに「強く反対する」と表明。艦艇など日本からの防衛装備品輸出実現に向けた協議加速を申し合わせた。

 ジョンソン英首相とは、安全保障分野での協力推進を確認。自衛隊と英国軍の共同訓練などに関する「円滑化協定(RAA)」の早期締結に向けた交渉加速で合意した。

 オーストラリアのモリソン首相とは日豪両国と米国、インド4カ国の協力枠組み「クアッド」の重要性を再確認。中国を念頭に「自由で開かれたインド太平洋」実現に向けた連携強化を進めていく考えだ。インド、スリランカ、モンゴル、キルギス、クウェートの首脳とも意見を交わした。(下久保聖司)

COP26 首脳級会合終了【解説】初外遊 脱石炭・核廃絶踏み込まず

 先の衆院選で自民党が上々の結果を収め、岸田文雄首相は意気揚々と初外遊に臨んだ。英国滞在は半日足らずながら、バイデン米大統領をはじめ各国首脳らと精力的に個別会談した。報道陣には、ジョンソン英首相やケリー米大統領特使(気候変動問題担当)の名を挙げ、「多くの古くからの友人と再会する機会を得た」と喜び、外相時代に培った人脈を誇った。

 就任後初となる対面での首脳会談で「日本の存在感をしっかり示せたと考えている」と語った。とはいえ外交は虚々実々。このたびのCOP26首脳級会合を仕切ったジョンソン氏は、全廃を求める石炭火力発電の問題に直接踏み込まなかった日本の新首相の演説をどう聞いたか。せっかく巨額の資金援助を約束したのだから、国内の脱炭素化の推進でも目に見える形での積極性を示すべきだった。

 非公開会談の概要に関する外務省の発表資料でも気になったことがある。被爆地広島を地盤とする首相はかねて核兵器廃絶を「ライフワーク」と言いながら、今回話題に上ったのはグテレス国連事務総長との席上だけ。核兵器保有国の英国にもぶつけてほしかった。

 バイデン氏とは短時間の面会にこぎ着けた。早ければ年内にも訪米して腰を据えて会談をする。バイデン氏はオバマ元大統領が掲げた「核なき世界」を引き継ぐ決意を示しており、絶好の機会といえる。温暖化対策も核廃絶も、全人類の課題として打算を排すべきだ。本格始動した岸田外交。首相が訴えてきた「協調」という言葉が問われよう。(下久保聖司)

(2021年11月4日朝刊掲載)

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