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社説・コラム

『潮流』 絵に描いた餅

■ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美

 核超大国の米国を初めて取材で巡った13年前、核戦略の専門家らに質問した。「被爆地からの核兵器廃絶の訴えは、政策担当者たちにどこまで伝わっているか」。核軍縮を議会に働き掛ける市民団体のロビイストの答えが胸に刺さった。「日本政府にも聞いてほしい」。「核の傘」にしがみつく被爆国の存在が彼らの活動の壁になっている、との指摘だ。

 それは、現在まで一貫している。バイデン米政権が検討する「核兵器の先制不使用」政策について、日本などの同盟国が採用に懸念を伝えていた、と先日報じられた。

 先制不使用は「先に核兵器を使わない」と宣言することで核兵器の用途を狭める。「使えない兵器」により近づけていく中で、核削減のハードルを下げる。日本や北大西洋条約機構(NATO)諸国には、核抑止力のほころびとしか映っておらず、許せない、ということなのだろう。

 海を隔てる中国と北朝鮮が核兵器を保有し、地域を危険にさらしている。だが、非人道兵器による脅し合いは、国と国民を守る解決策とはなり得ない。国際社会がそう決意した証しが、今年発効した核兵器禁止条約である。

 先制不使用は、被爆地にとっても受け入れ難い面が確かにある。核使用を完全に封じる政策ではないからだ。それすらも日本政府が阻むなら、禁止条約への署名と批准は「絵に描いた餅」であり続ける。来春に予定される条約の締約国会議の場に、政府をオブザーバー参加の形で何とか引っ張り出せても、その先はないだろう。

 岸田文雄首相は衆院選を受け、「政権選択選挙において大変貴重な信任をいただいた」と語った。しかし国民からの白紙委任ではない。

 「ライフワーク」に掲げる核兵器廃絶の政策を問うていくべきだし、議員と市民には、その責任がある。

(2021年11月4日朝刊掲載)

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