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社説・コラム

『記者縦横』 戦時下の文書 引き継ごう

■ヒロシマ平和メディアセンター 桑島美帆

 戦時下にいるような錯覚を感じた。今春、広島市中区の舟入高で、前身の市立第一高等女学校(市女)の資料を閲覧した時のことだ。太平洋戦争中、軍や県から発令された通達や、学徒勤労日誌のつづりなど、約30冊が保管されている。

 膨大な一次資料に圧倒された。学校の協力を得て10回ほど通って接写し、丹念に読み込んだ。軍需工場に動員中、病死した生徒の死亡報告書、工場勤務を休んだ生徒の反省文―。少女たちが戦争に巻き込まれていく光景が、映像のように浮かび上がった。

 7月に本紙連載「市女 学徒動員の記録」を展開し、一部が「ヤフーニュース」に配信されると、全国から1400件以上のコメントが寄せられた。各地の戦争体験が語られるとともに、「あの戦争の検証を」という声も目立った。

 生徒と教師676人が犠牲になった直接の原因は、米軍による大量殺りく兵器の使用だが、背景には日本の軍部はもとより政治、メディア、教育関係者が子どもたちの未来を奪った史実がある。資料は、そのさまを静かに物語っている。

 学校単位で貴重な歴史文書を保管する限界も感じた。取材中「行方不明」だった被爆直後の被災日誌と生徒調査表は後日、校長室で見つかった。戦後76年間で世代交代が進み、引き継ぎ体制はますます危うい。連載を機に、資料をデジタル化する作業が動き始めた。他の学校や企業にも資料が眠っているかもしれない。救う手だてが急がれる。

(2021年11月5日朝刊掲載)

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