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社説・コラム

[ひと まち] 83年前の教え子と再会

 岩国市尾津町の101歳の元小学校教諭末岡静枝さんが10月下旬、初めての教え子3人と再会した。新型コロナウイルスの流行で、100歳のお祝いに昨年会うはずだった約束がようやく実現した。「この日を迎えられて幸せ」。83年前に受け持った、かつての子どもたちと思い出話に花を咲かせた。

 同市錦町の西村佐津規さん(90)方を訪れた。末岡さんが最初に赴任した深須村(現錦町)で深川尋常高等小学校の1年生だった西村さんと野村久栄さん(90)、平川節士さん(89)が囲んだ。「永井先生、お元気そうで」「お懐かしい」。3人が末岡さんの旧姓で次々と声を掛ける。

 末岡さんは当時18歳。オルガンを弾き、子どもたち二十数人と教室に歌声を響かせた。「先生に教えてもらった唱歌、今でもしょっちゅう歌いますよ」と西村さん。この日も4人で歌声を重ねた。セピア色の集合写真を眺めながら、学校での出来事や、それぞれの歩みを振り返った。

 20年前の同窓会がきっかけ。年賀状のやりとりが始まったが、海沿いから山間部の町へは交通の便が良いとはいえない。舞い込む同級生の訃報が、年々増えてきた。「会うのはこれが最後になるかもしれない」。末岡さんは前日に美容院でおめかし。西村さんたちは角ずしを準備してもてなした。

 同市美和町で生まれ、岩国高等女学校(現岩国高)卒業後、周囲の勧めで1938年、教職に就いた。戦局が悪化すると男性教員は召集され、戦死した同僚も。岩国空襲で亡くなった教え子もいる。

 8年前、長年連れ添った夫の司さん(享年98)を見送った。昨年、今年と相次ぎ、きょうだいに先立たれた。「みんなおらんようになる」と寂しげな表情を見せる母を元気づけようと、長女の文子さん(73)がこの日を計画した。

 あっという間の3時間。話は尽きなかった。「本当にありがとう。幸せをいっぱい頂きました。寿命が延びました」と末岡さん。西村さんは「春には錦町にシバザクラが咲き誇る。先生と一緒に見られたらいいな」。(川村奈菜)

(2021年11月5日朝刊掲載)

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