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教育的配慮か行政の介入か 「ゲン」閲覧制限 松江市教委あす結論 

 松江市教委が漫画「はだしのゲン」の閲覧制限を小中学校に要請していた問題は、26日の教育委員会議で要請の継続か撤回が決まる見通しだ。表現の自由に対する行政の介入など重要な論点をはらみ、全国から批判が相次いだ問題はなぜ起きたのか。市教委による判断の背景と問題点を探った。(樋口浩二)

■経緯

 市教委は、問題の発端を昨年8月に市議会に提出された市民の陳情とする。「ゲン」の小中学校図書館からの撤去を求める内容で、提出前の同4、5月にも計3回市民が市教委を訪れ、同じ趣旨の申し入れをしていた。

 市議会は「議会判断にそぐわない」との理由で同12月5日に陳情を全会一致で不採択とした。だが、市教委はその12日後の校長会で制限を要請。約3週間後のことし1月にも再び要請し、ほとんどの学校が従っていた。

■判断の理由

 不採択とした市議会には「ゲン」をめぐる賛否があった。平和教育の教材として評価する意見と、過激な描写から「不良図書」とみる向きだ。「両方を尊重した」。市教委の古川康徳副教育長は22日、市議会の声を踏まえて閲覧制限を決めたことを記者会見で表明。それまで主張していた「事務局の独断」論を覆した。

 市教委が一貫して決断の根拠とするのは描写の過激さだ。当時の教育長・福島律子氏たち幹部は「ゲン」を読み対応を協議したという。「性的暴行の場面に驚いた」と福島氏。ほかにも描写への疑問が上がり、子どもへの悪影響を配慮して制限を決めたという。陳情者が問題視した歴史認識をめぐる価値判断は、全面的に否定している。

■問題点

 学校図書館を含め全国の2289図書館が加盟する日本図書館協会は22日、市教委に要請の撤回を求める要望書を送った。同協会図書館の自由委員会の西河内靖泰委員長(59)は市教委の対応を「図書館の自由を侵す検閲に当たると同時に、表現の自由への不当な介入だ」と批判。「教育上の配慮は一理あるが、子どもの知る権利は保障されるべきだ」と付け加える。

 22日までに全国から市教委に寄せられた意見は2555件で、そのうち反対が1777件と約7割を占めた。

 さらに22日の教育委員会議では、委員から意思決定のプロセスに質問が集中した。教育委員会に諮らず決定したことについて清水伸夫教育長は「適切でなかった」と陳謝した。

 市教委が19日、49小中学校に発送したアンケートでは、閲覧制限への支持が5校と約1割にとどまった。内藤富夫教育委員長は「表現の自由の問題や意思決定の過程を中心に、学校現場の声も参考にして結論を出す」と話している。

<松江市での「はだしのゲン」をめぐる主な動き>

2012年 4月     松江市民が「ゲン」を小中学校の図書館から撤去するよう申し入れ
       8月     市民が同趣旨の陳情を市議会に提出
       9月     市議会教育民生委員会が陳情の継続審議を決定
      10月     市教委が49小中学校に「ゲン」への意見と保有状況を聞くアンケートを発送
      11月     市教委が「ゲン」の撤去について有識者と相談
      12月 5日 市議会本会議が陳情を全会一致で不採択
         17日 市教委が小中学校に「ゲン」の閲覧制限を要請
  13年 1月     市教委が再度、閲覧制限を要請
       8月22日 市教委が閲覧制限を初めて公式に議論
         26日 市教委が閲覧制限への対応を決定予定

(2013年8月25日朝刊掲載)

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