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社説・コラム

『ひと・とき』 芸術活動家 板井三那子さん

土地の人と語り 演じる

 古びたベンチに1人で腰掛け、おもむろに演じ始める。昭和の広島の町並みを懐かしむ高齢女性、原爆ドームを「爆ド」と呼ぶ中年男性…。広島市内のベンチで実際に出会った人々を再現するパフォーマンスを、今年から展覧会や催しで披露している。

 「芸術活動家」を名乗る広島市立大大学院生。川沿いなどのベンチを巡っては地元住民の隣に座って世間話を交わす。再現パフォーマンスでは自身の声色を変え、身ぶり手ぶりも駆使して相手になり切る。「地元の人しか語り得ない地域の日常の記録」を体現する。

 観光名所や歴史的逸話が地域の印象を画一化しがちなのとは対照的に、個人の何げない言動にはリアリティーがあり、「思いがけない風土が見つかる」。「爆ド」のような個人特有の呼称は収集しなければ見過ごされ、記録されることもない。目標は「地域をアーカイブすること」と話す。

 中区の基町アパートに住み、住民と共同展覧会を開催するなど、もともと地域と関わる活動をしてきた。「人との出会いが創作の根幹にある」。今後は、日常の中でちょっとした創作に携わる地域住民同士をマッチングする企画を練る。「誰かと誰かの交差や衝突から、また新たな文化が生まれるはず」(福田彩乃)

(2021年11月9日朝刊掲載)

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