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ゲン閲覧制限議論「知る権利」に踏み込まず 松江市教育委員 見解分かれる

 作品中の「暴力的な描写」を理由に、松江市教委が市内の小中学校に伝えた漫画「はだしのゲン」の閲覧制限要請は、26日の教育委員会議で「撤回が妥当」との結論に至った。5人の教育委員は「学校の自主性を尊重する」との見解で一致。一方、「知る権利」に踏み込まなかった結論に、傍聴者からは「学校が自主規制する契機になる」との懸念も出た。(石川昌義)

 閲覧制限は昨年12月、市教委事務局が校長会の席上で伝えた。「市教委と学校は管理、被管理の関係にある。『口頭でのお願い』と言うが、現場は強制力を感じることもある」。内藤富夫教育委員長は、人事権や予算を握る教育行政と学校の関係を指摘した。

 強制とも解される「要請」は、どんな過程で生まれたか―。「歴史認識の誤り」を理由に学校からの撤去を求めた市議会への陳情を契機に「ゲン」を読み込んだ市教委幹部は、旧日本軍の戦場での斬首や女性への暴行の描写を問題視。「義務教育の教材としては一定のルール下で使った方がいい」(須山敏之・教育総務課長)との見方が、閲覧制限に発展した。

 教育委員の議論は、学校現場の意向を聞かなかった手続きの不備に集中した。一方、「子どもの知る権利」に関する委員の見解は分かれた。

 「合理的で必要最小限の制約を加えることはあり得る」「子どもの発達段階への考慮は必要」「知識を自由に得ることを制限するのは問題がある」…。意見集約が難しい論点は、手続き論を前面に出した市教委の結論からは読み取れない。

 要請撤回を求めるインターネット上の署名活動に取り組み、会議を傍聴した堺市の学童保育指導員、樋口徹さん(55)は今回の決定を歓迎しつつ、「歴史認識を問題にする人々が『残酷表現はけしからん』と訴えれば、学校現場が萎縮し、安易な自主規制に走る恐れがある」と危惧する。

 会議後、記者会見した内藤委員長は「(自主規制の可能性は)そこまで考えて議論していない」と述べた。一方、委員全員が強調したのは「学校現場の判断」だった。学校現場は、子どもの発達段階などにも配慮しつつ、戦争の悲惨さを教え、平和を求める次代の担い手を育てる役割を負う。閲覧制限問題は、学校が背負う責任の大きさを浮き彫りにした。

(2013年8月27日朝刊掲載)

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