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社説・コラム

社説 第2次岸田内閣 独自策ぶれずに進めよ

 きのう召集された特別国会で、岸田文雄首相が第101代の首相に選出され、第2次岸田内閣を発足させた。

 先の衆院選で岸田首相率いる自民党は、単独で絶対安定多数の議席を得た。有権者の信任を得たのは確かだろう。とはいえ、衆院選を経て本格的に船出したばかりの内閣である。これからが正念場だと言えよう。

 とりわけ、首相が自民党総裁選や所信表明演説で訴えていた政策をどうやって具体化していくのか。安倍・菅政権の反省に立って、国民の声にこそ耳を傾けられるのか。政権に向けられた視線は、引き続き厳しいことを忘れてはならない。

 新しい閣僚は外相の林芳正衆院議員(山口3区)だけ。前任の茂木敏充氏が、小選挙区では落選した甘利明自民党幹事長の後を継いだため起用された。農相や文部科学相などを歴任、首相を目指すため参院から衆院に転身して当選したばかりだ。

 外交面で期待されるのは、首相がライフワークとして掲げる「核兵器のない世界」の前進だろう。月末以降に予定されている米国訪問は、バイデン米大統領に直接、核なき世界への思いをぶつける好機となる。

 バイデン政権が検討中という核兵器の「先制不使用」について、被爆国の首相として賛同すべきである。従来の政府方針通り「恐怖の均衡」にすぎない核抑止論にすがっていては人類の未来は守れない。自身の主張に沿った方針転換が求められる。

 内閣としては独自策の具体化が急務だ。総裁選で掲げた「新しい資本主義」や「デジタル田園都市国家構想」は有識者会議を設けるなど動きだした。

 問題は、令和版所得倍増や金融所得課税の見直し、年間所得「1億円の壁」打破といった施策がどうなるかである。自民党の衆院選の公約では、そうした分配重視の岸田カラーは薄まっていた。そのため、主張が後退したとの批判も多かった。

 公約をまとめた高市早苗政調会長が、自身のカラーを濃くにじませたのが響いたようだ。総裁選で強力なバックアップを受けた安倍晋三元首相から「自分の色で作れば良い」とアドバイスを受けたからだという。

 背景には、党内有力者の声に耳を傾けてきた岸田氏の姿勢がある。安倍氏はきょうにも党内最大派閥の会長の座に就く。岸田氏が今後も党内の大きな声を重んじるのか。政権の行方を左右する鍵になりそうだ。国民の声を重んじてこそ、ぶれずに自身の政策を具体化し、進めていくことができるはずだ。

 その試金石の一つが、政治とカネの問題だろう。中でも、忘れてはならないのが2019年の参院選広島選挙区を舞台にした大規模買収事件である。カネをばらまいた河井克行、案里夫妻の有罪判決は確定した。しかし自民党本部から夫妻に提供された1億5千万円もの選挙資金が、買収事件の引き金になったとの疑念は拭い切れていない。

 広島県民のモヤモヤも残されたまま。政治とカネの問題は、県内の有権者が衆院選の争点に挙げた項目で、経済政策や新型コロナウイルス対策に次いで3番目に関心が高かった。岸田首相の誕生や総選挙で「みそぎが済んだ」気にならないよう、首相はもちろん、政府も与党も肝に銘じなければならない。

(2021年11月11日朝刊掲載)

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