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社説・コラム

社説 中国の「歴史決議」 習氏独裁の野望 危うい

 まれに見る長期政権への階段をまた一つ上ったと言えそうだ。中国共産党総書記で国家主席の習近平氏が、共産党の重要会議で権力基盤をさらに確かなものにした。

 先週開かれた第19期中央委員会第6回総会で、「歴史決議」が40年ぶりに採択された。史上3度目となる今回は、党創建100年を総括したという。

 習氏はこれで、過去2回の歴史決議採択を主導した、建国の指導者である毛沢東と、改革・開放政策を進めた故鄧小平氏と並ぶ権威を得たことになる。

 それを追い風に、おきて破りとも言える総書記3期目に突入するのが狙いのようだ。来年の党大会で「総書記の任期は2期10年まで」という不文律を破る。さらに権力地盤を強固にすれば、3期15年の任期を上回る長期政権になる懸念も膨らむ。

 習氏への権力集中は今や、個人崇拝の色彩すら帯びつつある。学校では教科書などを通じて、習氏への忠誠心を高める歴史教育が強化されている。

 中国では、歴史の解釈を共産党が決め、批判を許さない。そんな国で、習氏をたたえる歴史決議が採択された。異論はますます封殺されよう。危うさを増していると言わざるを得ない。

 経済力や軍事力で米国に次ぐ大国となっただけに、中国の行く末には、国際社会が不安を募らせている。無理はなかろう。

 とりわけ人権や自由の抑圧、国際ルール軽視は目に余る。

 例えば香港では、民主主義や自由を弾圧した。英国からの返還後50年間は「一国二制度」を守るとした国際的な約束さえ、かなぐり捨てた。新疆ウイグル自治区でも、ウイグル族弾圧に厳しい目が向けられている。

 南シナ海では軍事拠点化を進め、台湾の防空識別圏内に大量の戦闘機を進入させるなど、軍事圧力を強めている。日本の尖閣諸島の周辺海域でも、海警局の艦船が再三出没している。

 巨大経済圏構想「一帯一路」も問題だ。インフラ開発を通してアジアからアフリカに影響力を広げているが、自国に優位な融資条件で相手を「借金漬け」にして、不透明な形で支配力を増しているとの批判もある。

 国内では、言論に限らず、ITのアリババ集団をはじめ企業への統制を強めている。不満が広がらないよう「共同富裕(共に豊かに)」で格差解消を図る施策に力を入れている。

 習氏にとって、まさに内憂外患といった感じだろうか。その分、万一立ちゆかなくなるような事態に陥れば、天安門事件を再現するような国民抑圧や、対外強硬路線を加速しかねない。過度の権力集中はブレーキのない車のようなものだからだ。

 中国はかつて、取り返しのつかない間違いを犯した。鄧氏による歴史決議で「完全な誤り」と総括された文化大革命である。毛沢東の独裁による過ちを教訓にしたからこそ、ブレーキが利くよう、集団指導体制の導入や総書記任期への上限設定など、個人に権力が集中しない仕組みを作ったはずだ。長期政権という習氏の野望に歯止めをかける責任があるのではないか。

 国際社会は協力して、中国の暴走を防ぐ必要がある。日本としても、覇権拡大より国際協調を重んじて大国にふさわしい言動をするよう、粘り強く訴える役割を積極的に担うべきだ。

(2021年11月14日朝刊掲載)

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