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社説・コラム

『想』 今本洋子(いまもと・ようこ) エ?舟入高校演劇部?

 故郷広島を離れて37年。東京の劇団に入り、活動を続けています。4月に広島・安佐南市民劇場主催公演「吾輩(わがはい)はウツである」で6年ぶりに故郷の舞台に立ち、親元で暮らしていた頃のことが、思い出されてきました。

 私は、父の仕事の関係で、何度も転校を繰り返しました。戸坂小、和庄小(呉)、中之町小(三原)、舟入小、江波中、宇品中。そのたび「転校してきた今本洋子です‼」と大きな声で自己紹介。ドキドキワクワク。ここから私の転校生活初日は幕を開けます。この経験が、演劇を続けていく上で影響しているのかも…。時折そう思います。

 そして昭和57年、舟入高に入学しました。するとクラスメートに、鼻が高くて賢そうな女の子がいました。私の嫌いなタイプ。何故(なぜ)かど~も気になるのです。ある日、意を決して「あんたナニ部?」と聞くと「エンゲキブ」と、素っ気ない返事。エンゲキブ…。気がつくと私は演劇部の部室の前に立っていました。演劇人生のスタートです。

 部活では、いけ好かない彼女と何度も喧嘩(けんか)する羽目になりましたが、顧問の伊藤隆弘先生の指導のもと、原爆劇「おさん幻想」で全国大会に出場、銀賞をいただきました。私の芝居熱は高じ、東京の桐朋学園大学演劇科に進み、その後劇団朋友に入団しました。若い頃は舞台に立つことがただうれしくて、夢中で全国を巡演していました。

 そして、40歳を過ぎた頃のこと。≪もっと主体的に芝居を創れないか!≫という思いがこみ上げてきました。一念発起し、何本か企画し出演する芝居を創りました。一昨年企画した「コルセット」。人生には幾つものターニングポイントがあります。その時、心のコルセットを外して、自分らしい人生を歩みたい。今日よりも明日が元気になれたら―そんな想(おも)いを込めて創りました。これからも心に響く舞台を企画し、皆さまにお届けしたいと思っています。

 最後に「エンゲキブ」と言ったクラスメートですが、今も美人です。彼女は帰郷するたびに必ず杯を交わす無二の親友です。(俳優)

(2021年8月15日中国新聞セレクト掲載)

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