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連載・特集

ヒロシマ胎動 第1部 戦場のイラク <1> 放射能兵器

市街地で静かに汚染

 分厚い戦車の装甲は砲弾の直撃を受け、いくつか穴が開いていた。放射線を測るサーベイメーターを近づけてみる。電子音の間隔が短くなり、みるみる数値が上がっていく。

体内に蓄積

 首都バグダッドから約三十五キロ南西の町、マハムディーヤ。メーン通りの商店は、窓ガラスが割れ、すすけた建物が目に付くものの、店先には果物や日用品、電気製品が並び、活気に満ちていた。戦車はその通りに放置され、人ごみの中で放射線を放っていた。

 「劣化ウラン弾」―。

 戦車の最上部のハッチ近くで、測定器の値は一時間当たり〇・一四マイクロシーベルトを指す。この測定器は、同じ放射線でもベータ線やガンマ線向けで、劣化ウラン(ウラン238)が主に出すアルファ線は検出できない。だから、数値はあくまで目安にすぎないが、周辺で何度か測った地表ではたいてい「〇・〇三」前後で止まった。

 「放射能兵器」と呼ばれる劣化ウラン弾がイラクで使われたのは、今回が初めてではない。一九九一年の湾岸戦争では、主戦場となった南部で主に使用された。劣化ウランは比重が重く、弾芯(しん)に使えば戦車を貫き、建物へのダメージも大きい。米英軍は「人体や環境への影響は少ない」通常兵器だ、という。

 しかし、空中に漂う劣化ウラン微粒子を吸い込むと、体内に蓄積し、がんや白血病を引き起こすとされる。

 今回、約四百八十万人が住むバグダッドや近郊の町などの人口密集地が劣化ウラン弾の標的となった。湾岸戦争以来、イラク取材を続けるフォトジャーナリスト豊田直巳さん(47)は「バグダッド市街地で劣化ウラン弾がごろごろ転がっていた」と証言する。

 豊田さんはバグダッド陥落の約一週間後、イラク政府の計画省敷地内で測定器が反応する金属片を目撃した。調査団も今回、試みようとしたが、治安維持の米軍が駐留し、中には入れなかった。

被害未知数

 マハムディーヤ付近で劣化ウラン弾が使われたのは初めて。物珍しさからか、すぐに住民に取り囲まれた。「子どもが戦車で遊んでけがをした。大丈夫か」と、傷あとが残る息子の手を引っ張ってきた男性がいた。老人は「戦車を早くどこかへ持っていけ」と腹立たしげに怒鳴った。

 放射線は目に見えない。測定も難しい。例えば一方の測定器が「〇・一四」を示したマハムディーヤの戦車は、別の種類の測定器では約九十倍の約一三マイクロシーベルトを指した。ウラン微粒子を人々はどれだけ吸い込んだのか、尿検査などで一人ひとりを正確に調べようとすれば、途方もない費用と時間がかかる。

 湾岸戦争による人体への影響は、その数年後から現れ始めた。イラクの人たちが再び恐怖を知るには、自らの体がむしばまれるまで待つしかないのだろうか。

    ◇

 広島市民らでつくる「劣化ウラン弾禁止(NO DU)ヒロシマ・プロジェクト」が六月下旬、イラクに派遣した調査団に同行し、戦争のつめ跡を垣間見た。核兵器廃絶と平和を願って行動してきたヒロシマ。いまだ戦場のイラク。うち続く戦の世に、被爆地はどう立ち向かえばいいのか。まず、がれきの街から考える。(城戸収)

(了)

(2003年7月11日朝刊掲載)

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