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連載・特集

ヒロシマ胎動 第1部 戦場のイラク <3> ツワイサの悲劇

危険知らず 住民被曝

 イラク戦争さなかの四月上旬、バグダッド南東約二十五キロのツワイサで、信じられない「事件」が起きた。イラク最大の核施設であるツワイサ原子力センターが周辺住民の略奪を受け、付近が放射能で汚染されたのだ。

 住民らはセンター貯蔵庫から、黄色い粉状のイエローケーキ(ウラン精鉱)が入ったドラム缶約百本や機材を盗んだという。何も知らない住民たちは、イエローケーキをセンターの敷地内や付近の道路に捨て、ドラム缶を飲み水などをためる容器として使った。

 急性放射線障害を訴えた住民は、少なくとも七人に上った。体の異常を訴える人たちの人数や詳しい状況は分からない。

 六月二十八日朝、国際環境保護団体グリーンピースが現地を訪れると聞き、同行した。トラック二台に約百本の貯水容器を積み込み、センター近くの集落へ急いだ。

米軍への怒り

 「汚染されたドラム缶を米軍が一本三ドルで回収している。だけど、まだ多くの人が持っている。安全な容器との交換を呼び掛けるんだ」。メンバーのマイク・タウンズレーさん(39)らは、集落の長という男性(49)宅の庭先に容器を運び込んだ。

 「米軍は何もしてくれない。誰も信用していないさ。盗んだことを言い出せない人もいる」。作業を見守っていた男性は米軍へのいらだちを隠さなかった。「原子力や核について何も知らなかった。危険だとは思わなかった。本当に恐ろしい」

 グリーンピースは今月四日、センター一帯の汚染調査結果を明らかにした。環境値の一万倍の放射線量を検出した家や、約九百人が通う小学校付近で三千倍という高い数値を示したという。

 「一刻も早い住民の健康調査と、徹底的な汚染除去が必要だ」とタウンズレーさんは険しい表情で語った。

容器野ざらし

 一行と分かれて調査団は、イエローケーキが入った容器が野ざらしになっていた広場に向かった。

 その数日前、グリーンピースが容器を回収し、米軍に引き渡していた。調査団は、ほこりを吸わないためにマスクをつけ、放射能が残っていないだろうかと、地表に測定器を近づけてみた。積算被曝(ひばく)線量を表示する線量計の値とともに、さほど変化はなかった。

 熱風が土ぼこりを巻き上げる。汗をぬぐったタオルが茶色に染まる。忌まわしい粉末も、どこかに飛び散ったのか。

 「ここに来るやつは、みんなマスクをしている。ああ気分が悪い」。調査団を見た近所の男性(46)が、いらだたしげに近づいてきた。「どうすればいいというんだ。仕事もなく、ここに住む以外にないんだ」

 広場から数百メートルのところに女子小学校があった。子どもたちは、驚くほど明るい笑顔を見せていた。

(2003年7月13日朝刊掲載)

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