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連載・特集

ヒロシマ胎動 第2部 「平和がいい」 <1> 等身大

若者は素直にピース

 夏至だった六月二十二日夜、広島市中区の中央公園に、ピースマークが浮かび上がった。円弧とハトの足を組み合わせた模様に灯ろうを並べ、闇をやさしく照らす。

 集まった約三十人の若者のなかに、西区の会社員門田よしこさん(33)もいた。

人文字描く

 「平和運動って、ディープでストイックな感じ。戦争に反対する行動なんて、信念を持ってないとやれない」

 ついこの間まで、そう思っていた。今は気負わない。近くのビルの屋上に陣取った仲間と携帯電話で連絡を取り合い、灯ろうを持ち上げたり、二重にしたりと、マークの形を整えていく。

 「こんなゆるーい感じでも、つながることができる」

 転機は、イラク戦争だった。米英軍による空爆が差し迫っていた三月二日、同じ中央公園に六千人が集った。体を押し付け合い、「NO WAR(戦争) NO DU(劣化ウラン弾)!」の人文字を描いた。

 門田さんは、一人で参加した。国連児童基金(ユニセフ)の募金に協力した程度で、体を動かす平和活動はそれまで、やったことはなかった。

 「家から会場が近かったし、人文字に加わるくらいなら、自分にもできそうな感じだった」

 見知らぬ顔の普通の表情を見るうち、やや身構えた気持ちは、すっかり緩んだ。

 「なんだぁ、戦争は嫌だっていう素直な意見を、こんな風に表してもいいんだ」

 三月二十日、バグダッド空爆が始まった。ブッシュ米大統領は五月二日(日本時間)、わざわざ空母の甲板で、そのイラク戦争の「戦闘終結」を宣言した。

 同じような違和感を抱いた仲間たちがいた。多くが人文字集会に参加していた。今度は原爆投下の八月六日夜、灯ろうを集めよう―。

 「今年の8月6日、広島に吹く風は何を語っているんだろう」

 集いのキャッチフレーズをそう決めた。夏至の夜は、そのプレイベントだった。集まって話してみると、既存の平和運動を縁遠く思う同世代が多いことも感じた。

 「若い世代がこれまで動かなかったのは、決して無関心だからではないと思う。素朴にピースっぽいことしたい人にとって、政治色の強い運動は引っかかっていたのじゃないか」

世界を思う

 原爆とイラク。戦争犠牲者への慰霊の夜は、二〇〇三個の灯ろうでピースマークと、日本語やハングル、アラビア語で「平和」の言葉を描く。

 「なまはんかかもしれない。けど、みんなが自分を駆り立て、世の中に立ち向かえるわけじゃない。それより一緒に一秒でも二秒でも、亡くなった人のこと、世界の出来事を思いたい。そうすればきっと、風が起きる」

 等身大の一人ひとりが集まって、大きなマークをつくりたい。

   ◇

 イラク戦争が始まった前後から、被爆地広島の反対運動に、若者たちの姿が目立つ。自分たちなりに考え、従来にない多彩な表現で、「平和がいいね」と訴える。

(了)

(2003年7月18日朝刊掲載)

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