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連載・特集

ヒロシマ胎動 第2部 「平和がいい」 <3> 自分流

日常に活動のヒント

 二十―六十歳代の男女八人がテーブルを囲んだ。近所の子どものしつけから核兵器廃絶まで、幅広い話題が飛び交う。

 七月最初の金曜日。広島市中区の市まちづくり市民交流プラザに、「ピースフォーラム」の卒業生たちが集まった。昨年一年間、広島平和文化センターが主催する講座で被爆の実相を学んだ仲間たち。「卒業しても平和のことを考えよう」と、月一回程度の語らいを続ける。

「人間好きに」

 この日、安佐北区の野々下涼さん(24)は、小学生対象のキャンプをやろうと言い出した。

 「反戦とか平和とかを前面に押し出すのではなく、まず人間を好きになってほしいから」

 野々下さんは今、アルバイトをして暮らす。正社員の勧めを断っている。平和な世の中をつくるには「根本的な教育」こそ必要。そんな信念で、まずは世界の教育実態を見て回りたいから。小学校の臨時教員を経験したこともあったが、現実に取り巻かれる子どもたちの姿は、窮屈に見えて仕方なかった。  「今の反戦運動にしても、結局、何にもならない」

 今年三月、市内であったイラク戦争反対を訴える人文字集会に加わってみた。でも戦争は、いとも簡単に始まった。

 「反対反対と、ただ声を上げるのって、何もしないことに罪悪感を感じて自分で自分を慰めているにすぎないのではないか」

 「否定するだけは何も解決しない。群れて反対する前に、それぞれが日常から、問題の本質を真剣に考えなくては」

 メールで知人に思いをぶつけたりしながら、自己満足に終わらない活動探しを続ける。

デモ参加せず

 広島大大学院で比較国際教育学を専攻する卜部匡司さん(26)も、ピースフォーラムの卒業生。やはり被爆地の反戦運動に、何か乗れないものを感じる。

 イラク戦争が始まった三月二十日。研究のためドイツ・ハノーバーに滞在していた。目の前で大規模なデモ行進が繰り広げられた。「すごかった。ハノーバーの人たちが、心の底から戦争に反対しているのが分かった」

 でも帰国後、自身は街の集会やデモに繰り出したりはしなかった。

 「被爆者が世の不条理を覚え、叫ばずにいられなくなる。そのやるせなさはよく分かる。だからといって、広島は何でも不平不満を言えるわけではないはず。被爆体験を受け継ぎ、伝える方法は、何も『運動』だけじゃないでしょう」

 研究室で、世界各国からの留学生たちと自然に交流している。自分の足元に、何かヒントがあるのだろうと感じる。

 野々下さんも卜部さんも、今年もまた、「ピースフォーラム」を受講している。

(2003年7月20日朝刊掲載)

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