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社説・コラム

社説 米中首脳会談 軍事的衝突 対話で防げ

 米国のバイデン大統領と中国の習近平国家主席のオンラインによる首脳会談が行われた。2月、9月は電話会談だったが、今回は初めて「対面」での対話となった。

 2人は副大統領、副主席時代からの旧知の仲だ。にもかかわらず、3時間半に及んだ会談では、経済や人権、安全保障などを巡って激しい応酬を繰り返した。バイデン氏は中国を「唯一の競争相手」とみなし、習氏は欧米主導の国際秩序に反発している。考えの隔たりは大きく、共同声明を出すこともできず、目に見える成果はなかった。

 それでも緊張緩和を目指して対話へ踏み出したことは一定に評価できる。関係はすぐ改善できるものではない。両首脳はこれを出発点に対話を重ね、信頼関係を醸成すべきだ。

 最大の懸案は台湾問題である。会談では、習氏は台湾が中国の一部であるという「一つの中国の原則」を強調した。バイデン氏も中国の主張を認めるとし、台湾の独立を支持しない立場を堅持した。

 同時に、バイデン氏は「中国が一方的に現状変更したり、台湾海峡の平和と安定を損なったりすることに強く反対する」とも警告した。習氏は「台湾は中国の一部であり『独立勢力』がレッドラインを越えれば断固とした措置を取る」と軍事行動も辞さない強硬な姿勢を示した。

 10月には、50機を超す中国軍機が1日で台湾の防空識別圏に進入した。対抗するつもりなのか、米国やカナダの艦船が台湾海峡を合同で航行した。中国の台湾への威嚇行為はエスカレートしており、台湾海峡で偶発的な武力衝突さえ起きかねない状況である。

 バイデン氏は「競争制御のための共通認識に基づくガードレールが必要」と訴え、習氏も「平和的な共存、協力」を強調した。首脳が意思疎通して、不測の事態を回避する考えで一致したことは、最低限の前進といえよう。

 一方、香港やチベット、新疆ウイグル両自治区の人権問題は平行線だった。バイデン氏は懸念を伝えたものの、習氏は「内政干渉」とはねつけた。

 人権や民主主義は民主国家の普遍的価値観である。国際社会の中国に対する視線は厳しい。背を向けていられないことを中国は強く認識すべきだ。

 バイデン氏はアフガニスタン撤退などで支持率が低下している。来年の中間選挙で巻き返しをもくろむ。習氏は、今月開かれた共産党の重要会議で40年ぶりの「歴史決議」が採択され、権威を高めた。来年の党大会で異例の3期目突入を果たそうとしている。

 米国内では中国不信が高まり、来年2月の北京冬季五輪へのボイコットも取り沙汰されている。互いに対外的に譲歩しにくいかもしれないが、世界の平和と安定は米中両国の関係にかかっている。両首脳には強い自覚を求めたい。

 会談に先立って開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、両国は地球温暖化対策の協力強化などを盛り込んだ共同宣言を発表した。両国はこうした気候変動問題や新型コロナウイルス対策といった対立しようのない分野で、まずは協力関係を積み上げていくべきだ。

(2021年11月19日朝刊掲載)

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