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連載・特集

ヒロシマ胎動 第2部 「平和がいい」 <5> 映し鏡

伝える言葉 若者模索

 「あなたはどこに住んでいるの?」
 「広島よ」
 「知ってる。原爆が落とされた街でしょ」

 会話はそれ以上、続かなかった。三年ほど前、ドイツの若者と交わした電子メール。広島市南区の会社員野上亜衣さん(28)は、思い出すと切なくなる。

少ない「機会」

 「ヒロシマを伝える言葉が、自分の中に見つからなかった。原爆のこと、地元で友人と話す機会も少ないし…」

 イラク戦争の開戦から六日後の三月二十六日。野上さんは、市青少年センター(中区)が募った広報紙「HEART HEART」のスタッフ会合にいた。仲間は十―二十代の九人。「日本政府は米国のイラク攻撃を支持しているけど、うちらの思いは違う」

 議論の末、自分たちと同年代の考えを「ピースアンケート」で聞くことにした。目標は千人。戦争への賛否を聞くだけでは、傍観者としての回答で終わってしまう。戦争が起きている現実と、その世界に生きている自分に向き合ってもらいたい。そう願って七十近い質問案を出し合い、うち十問に絞り込んだ。

 「もし戦争が起きたら自分の国のために戦えますか?」「自分にとってかけがえのないモノを守るために人を殺せますか?」…。

 一カ月近くかけ、千三百六十一人分の回答が寄せられた。イラク戦争に「賛成」が9%あった。「戦えますか?」「殺せますか?」の問いにも、それぞれ10%、27%の若者が「はい」と答えた。

 集計結果を囲んで四月二十三日、スタッフ座談会を開いた。「結局、個人の力で戦争は止められないのかなぁ。広島の私たちは何をすればいいんだろう」。野上さんは無力感がわいた、という。

生活者の目で

 野上さんは電子メールで問い掛けてみた。送り先は、二〇〇〇年二月の「広島・沖縄平和のキャンパス」で知り合った那覇市の会社員前泊肇さん(31)。広島市などが沖縄で開いた二泊三日の合宿で、戦争や平和をテーマに議論した仲だ。

 「広島でも沖縄でも、生活者の視点で平和を考える機会を絶やさないこと」。そんな返事が届いた。米軍基地の移設問題などで揺れる沖縄。五十八年前の沖縄戦を心に刻む一方、不況のなか、待遇のいい基地従業員に応募する若者は多い。

 「広島の若者は核兵器などの知識は豊富なんだけど、すぐに世界平和とかに話を広げる。平和って、もっと身近な問題から考えるべきじゃないかな」。前泊さんが広島の若者に抱く印象だ。

 五月十日、アンケート結果と座談会の詳報を載せた広報紙を発行した。前泊さんのメッセージも盛り込んだ。

 「ヒロシマから何をどう伝えるべきなのか。アンケートを通じて、模索が始まったんだと思う」。野上さんたちは今、そう考えている。

(2003年7月22日朝刊掲載)

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