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連載・特集

ヒロシマ胎動 第2部 「平和がいい」 <7> バトン

学習誓い これからも

 卒業式は、忘れられない日になった。
 三月二十日、広島市西区の己斐小学校。百八人の卒業生は声を合わせ、「旅立ちの決意」と題した手づくりの呼び掛け文を発表した。
 「己斐小学校を巣立っても 真の平和とは何か
 真の豊かさとは何かを
 問い続けます…」

卒業式に開戦

 その直後だった。教師がそっと子どもたちに告げた。「イラクで戦争が始まったんじゃと」

 「決意」を胸に卒業した今も、子どもたちは週末になると、慣れ親しんだ母校に集まってくる。「己斐ピースボランティアクラブ」。希望者を募ったら、卒業生の四分の三の八十人も集まった。床に車座になって「平和」について話し合う。

 「通う学校はバラバラになっても、私たちにできることをみんなで考え続けたいんです」と広島工大付属中一年川崎梨江さん(12)。小学生の時の平和学習を単なる「思い出」にはしたくない。

 「僕らが巣立とうという時に、何でイラクの人たちは悲しまんといけんのじゃろう?」

 修道中一年になった三輪尚充君(13)も、卒業式の日を忘れない。戦争はショックだった。同時に、みんなと一緒に取り組んだ平和学習が「帳消しになる」と思った。

 平和学習は小学五年と六年の二年間続けた。例えば己斐地区の墓所を巡り、墓石に刻まれた年月日から戦争犠牲者を調べた。二〇〇〇年夏から学校で開いている原爆死没者の慰霊祭も、先輩たちから引き継いでやり遂げた。

 「中学生になって平和活動をやめたら、本気で頑張ったあのころがウソになる」

 三輪君は昨夏の市の平和記念式典で、こども代表として「平和への誓い」を読み上げた一人。

 「私たちが平和のリレーランナーとして、受け取った命のバトンをしっかり握り締め、戦争や原爆の恐ろしさと平和の尊さを語り継いでいきます」―。参列者を前に誓った言葉に、三輪君は背を向けたくない。

アピール準備

 七月初めのピースボランティアクラブ。約四十人が集まってきた。八月十日に全国の国語教師が集う研究協議会が市内であり、そこで計画している「平和アピール」の準備が大詰めに差し掛かっている。「今の世界へ」「平和になるためのキーワード」など四つの場面構成で、呼び掛け文や歌を盛り込む。

 ふだんは子どもたちの自主性に委ねている四海智奈美教諭(38)が久しぶりに、げきを飛ばした。「みんな、小学生の時みたいに『平和』の言葉ばかり使えばいいんじゃあないんよ。中学生なんだから、自分の向かう方向をしっかり訴えんと」

 子どもたちがずっと「ヒロシマ」のバトンを握り、走り続けてほしい。見守る四海教諭たちはそう願う。(第2部おわり)

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 第二部は森田裕美、林淳一郎が担当しました。

(2003年7月24日朝刊掲載)

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