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連載・特集

ヒロシマ胎動 第3部 被爆地の使命 <3> 両輪

継承か創出か 接点模索

 四角い窓ガラス越しに、原爆ドームが借景のように収まる。十五日、広島市中区の広島商工会議所ビルに国連訓練調査研究所(UNITAR=ユニタール)広島事務所が開所した。中国地方初の国連関係機関は、焦土から復興を遂げた被爆地を活動の場に選んだ。

 「広島の復興と新生の経験をポジティブな力に変え、多くの国と分かち合いたい」。二十二日の着任会見でナスリン・アジミ所長も、「復興」の言葉を強調した。

 ユニタールは政府職員や研究者を対象に、平和維持や経済発展に向けた研修を進める。広島事務所はスイス・ジュネーブ本部と米ニューヨーク事務所に次ぐ拠点。アフガニスタン空爆、イラク戦争と、新世紀を迎えても戦火の絶えないアジア・太平洋地域の五十数カ国をカバーする。

ズレが表面化

 誘致には、広島県が奔走した。「平和をつくり出すうえで、人材育成は欠かせない。被爆から立ち上がったヒロシマの事実を踏まえ、国際貢献を進める」と県国際企画室の中宮潤室長。二〇〇〇年からユニタールに誘致を働き掛け、試行的な研修も三度重ねた。

 広島事務所の運営費についても、県は本年度は約一億六千万円、さらにその後の二年間も毎年約一億二千万円の支援を約束している。

 しかし、その運営費をめぐり、県と広島市のズレが表面化した。県は、うち年三千万円の負担を市に求めた。財政難の市は六月補正予算案に、約七百万円を計上しようとしたが、県は「待った」をかけ、再考を促した。

 「広島の都市機能や中枢性を考えれば、ユニタール誘致に意義はある。財政難とはいえ、協力はしたい。だが、市の平和施策との整合性があるかどうかが疑問」。市市民局の増田学局長は、満額計上しにくい事情をそう説明する。

軍縮会議以来

 市は被爆地として、恒久平和の実現に向け、核兵器廃絶を訴える。二年後に迫った被爆六十年を前に、核兵器にこだわり、被爆体験の「継承」を重点施策に掲げる。

 一方の県。「世界各地で平和を破壊している原因の多くは核兵器以外であり、多様化・複雑化している」。今春まとめた「ひろしま平和貢献構想」に、こんな文言を盛り込んだ。貧困、宗教、民族問題など、争いの火種を摘み取ることが、平和を「創(つく)り出す」道筋とみる。

 意識のズレか、あるいは両者の役割分担なのか―。「スタンスの違いはあるが、今こそ県と市が互いの構想を議論しなければならない」と市側。県側も「それぞれができることで協力したい。本来、両輪であるべきなのだから」と協議を続ける構えだ。

 同じ被爆地の自治体でありながら、県と市が平和施策で手を携えるのは、一九九六年七月の国連軍縮広島会議の開催以来、ほとんどなかった。ユニタールをめぐる議論は、その平和行政の針路をも問い掛けている。

    (2003年7月29日朝刊掲載)

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