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連載・特集

ヒロシマ胎動 第3部 被爆地の使命 <4> 講座

学問で普遍化 次世代へ

 「原爆とは」。講師が問う。「最も恐ろしいもの」「今でも苦しんでる人がいる」。学生たちは頭をひねり、答えた。

 十四日、広島市安佐南区の市立大国際学部。韓国での被爆体験継承の現状などをテーマに、日本学術振興会の直野章子特別研究員(社会学)が講義した。

 市立大は昨年度後期から「平和と人権」講座の内容を一新した。半期の十三コマにわたり、物理学、医学、社会学、美術など広範な分野で学内外の講師が、被爆体験の学問的な位置付けや、体験継承の今日的な意味を解説する。

 講座は、広島市が長崎市とともに昨年から、世界の大学に開設を勧めている「広島・長崎講座」の先取りでもある。被爆者の高齢化が進み、体験を直接聞く機会が少なくなっている今、世界にどうヒロシマを発信していくか―。市が「ヒロ・ナガ講座」と呼んで普及を急ぐ背景はそこにある。

一歩踏み込む

 おひざ元である市立大の講座は本年度前期、単位互換の他大学の学生たちも含め、約百五十人が受講した。「被害の悲惨さは知っていたつもりだった」という芸術学部二年山門容子さん(24)は、国の違いで原爆投下や被爆体験に多種多様なとらえ方があることに、あらためて気づかされた。

 学生たちの受講票(出席カード)にも、おおむね好意的な感想が並ぶ。「今までにない視点を持つことができた」「これまで習った平和学習より、一歩踏みこんだ知識が得られた」…。

 「ヒロシマ、ナガサキを普遍化したい」と、講座をコーディネートした市立大広島平和研究所の水本和実助教授は強調する。「学問的に分析し、整理された形で次世代に伝えることで、核問題についての共通認識の広がりを期待したい」

 市は、秋葉忠利市長が自ら各国を訪問した際などに大学へ直接働きかけるなど、「ヒロ・ナガ講座」普及に務めてきた。

国内外で開設

 その甲斐あって、講座を新たに始めたのは、市立大と早稲田大、国際基督教大と国内に三校ある。さらに、来春からフランスのパリ政治学研究所が開設を予定し、ロシアのモスクワ大やボルゴグラード大なども準備に乗り出した。

 米中枢同時テロやイラク戦争などの世界情勢を受け、大学当局や学生たちが平和や核情勢に関心を高めている時代環境も、皮肉とはいえ、普及の追い風となっている。

 課題も鮮明になってきた。大学によっては、講座を担当できる人材に限りがある。一つの大学だけでは、平和に関連する単発講座は開けても、連続カリキュラムが組めない。世界的な連携をどう進めていくか。

 講座の普及を担当する広島平和文化センターの斉藤忠臣理事長は「世界にはまだ核兵器被害への無知や無関心がある。それを払しょくするためにも講座を定着させたい」とし、「講師陣の『出前』も含め、被爆地からの協力体制を構築しなければならない」と、カリキュラムのモデルづくりを急ぐ考えである。

(2003年7月30日朝刊掲載)

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