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連載・特集

ヒロシマ胎動 第3部 被爆地の使命 <7> 発信

平和の未来 行動求める

 広島市中区の平和記念公園にある原爆の子の像で、折り鶴が心ない放火で燃えた一日朝、秋葉忠利市長は市役所での記者会見に臨んだ。

 「平和を思う人たちへの完全な挑戦だ。広範の人たちに、平和を思うメッセージを分かってもらう努力をしなければならない」

 会見で市長は、六日の平和記念式典で読み上げる平和宣言の骨子を明らかにした。

 「力の支配」は闇であり、被爆者から生まれた「和解」の精神こそが、人類の未来に対する光である―。

 憎しみや暴力の連鎖が続いた二十世紀を締めくくる二〇〇〇年、市長は「和解」をキーワードに宣言をまとめた。そして今年の宣言で再び、「和解」の言葉を盛り込む。

 被爆地の足もとで、たびたび折り鶴が燃やされる心ないいたずらが続き、世界では米中枢同時テロやイラク戦争。二十一世紀も当初から、「戦争の世紀」で幕を開けたからだ。

 被爆地からの平和の発信は、世界の心に響いているだろうか。

見学時間45分

 8・6が近づき、平和記念公園にある原爆資料館のにぎわいが増してきた。気になるデータがある。入館者が見学にかける平均的な時間は「四十五分」。

 約二千平方メートルのフロアに、被爆資料をはじめ約九百二十点の展示品。すべて目を通すには、三時間はかかるとされる。

 資料館は七月二十四日から、入館者からの聞き取り調査を始めた。開館五十周年にあたる〇五年に向け、展示の更新や施設整備の参考にするためだ。「重複が多い」「どう見たらいいか順路がよく分からない」。手厳しい意見も相次ぎ寄せられる。

 もの言わぬ遺品から五十八年前のあの日を具体的にイメージしてもらおうと、資料館は、被爆資料とその持ち主の遺影とを並べる試験展示を始めている。データの更新が遅れ、世界の最新の核情勢を反映していないと指摘を受けた「核時代」の展示も一新した。

能動的な展示

 胎内被爆者の畑口実館長は資料館の役割を再考している。「受け身での展示でなく、いかに心に訴えかけることができるか。折り鶴を折ってもらい、感想をインターネットで書き込んでもらう。そんな能動的な行動につながる方策を考えたい」

 平和市長会議の加盟都市に、8・6の日に「ヒロシマ・デー」関連行事を開催するよう呼びかけたり、日本政府に「作らせず、持たせず、使わせない」の新非核三原則を提唱するよう求めたり。「平和行動の連鎖」というキーワードも、最近の広島市の平和の訴えの根底に共通して流れる。

 そして秋葉市長は今年の宣言に、被爆地の決意を盛り込む。「子どもたちの時代までに、核兵器を廃絶し戦争を起こさない世界を実現するため、新たな決意で努力する」と。=おわり

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 第三部は森田裕美、林淳一郎が担当しました。

(2003年8月2日朝刊掲載)

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