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核先制不使用 相次ぎ「ノー」 岸田政権閣僚「米の傘」頼み固執

被爆者ら「なぜ」「情けない」

 米国のバイデン政権が検討する「核兵器の先制不使用」政策を巡り、岸田内閣の閣僚が相次いで「ノー」を唱えている。被爆国の政府が「核の傘」にこだわり、中国などに対する抑止力の低下に懸念を示した形だ。核軍縮の専門家には理解を示す向きもあるが、被爆者団体などからは「核軍縮につながる政策になぜ賛同できないのか」と落胆や不満がこぼれる。(樋口浩二)

 核兵器を相手国より先に使わないと宣言することは、核を持つ目的を核攻撃抑止と報復に狭めて保有国の削減に向けたハードルを下げる利点があるとされる。バイデン政権は新たな核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」の取りまとめに当たり、先制不使用政策の採用を検討。日本をはじめとする同盟国が懸念を伝えたとされる。

「足並み」を強調

 核兵器廃絶を「ライフワーク」とする被爆地広島選出の岸田文雄首相(広島1区)は表立って評価を口にしない代わりに、閣僚から後ろ向きな発言が相次ぐ。

 「先行不使用宣言は全ての核兵器国が検証可能な形で同時に行わなければ有意義ではない」。今月10日の記者会見でこう述べたのは政府のスポークスマンである松野博一官房長官だ。

 北朝鮮などの脅威を念頭に「全核保有国が核兵器を先に使わないと足並みをそろえない段階では効果がない」と外務省幹部。安全保障を米国の核戦力による威嚇に頼み、その弱体化に反対する姿勢を示した格好だ。翌11日には林芳正外相(山口3区)も同じ物言いで慎重な姿勢を表明した。

 日本はバイデン氏が副大統領を務めたオバマ政権下で検討が進んだ2016年にも水面下で米国側に反対を伝え、断念につながったとされる。

外交努力が先決

 一橋大の秋山信将教授(核軍縮・不拡散)は「米中関係一つとっても相互不信が根深い。米国が一方的に宣言した場合、『弱みを見せた』と中国が誤って理解する恐れがある」と政府見解に理解を示す。同時に「対話を通じ先制不使用政策が前向きな結果を生む環境をつくることが先決だ」と日本の外交努力を促す。

 一方、NPO法人原子力資料情報室(東京)の松久保肇事務局長はバイデン政権発足に伴う米国の再検討を見越し、先制不使用に反対しないよう与野党に求めてきた。「核兵器の用途を狭め、核戦争が起きるリスクを大きく低減するチャンス」と考えるからだ。岸田政権には「これまでの政府見解に固執せず、米国の先制不使用宣言を後押しする姿勢に転じてほしい」と求める。

 就任から1カ月半が過ぎた岸田首相。就任会見で「核なき世界に全力を尽くす」としたものの、核政策を巡る前政権との違いは見えない。日本被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員(89)は「米国の核の傘にしがみつく姿勢は変わらず、唯一の戦争被爆国として情けない。被爆地選出のリーダーとして核兵器をなくす具体的な行動を早く起こしてほしい」と訴える。

(2021年11月24日朝刊掲載)

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