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社説・コラム

社説 イランの核開発 合意破り 米の責任重い

 米国のトランプ前大統領の愚策が、中東でも影を落としている。一方的に離脱した、イランとの「核合意」である。

 核兵器開発を抑え込むため、米国や英国、フランス、ドイツなど計6カ国が2015年にイランと合意した。その成果は、全ての関連施設を査察する国際原子力機関(IAEA)の折り紙付きだった。

 にもかかわらず、難癖とも思える理由を挙げ、合意破壊の暴挙に出たのがトランプ氏だった。自身の支持基盤である宗教保守派が、イランと敵対するイスラエルの熱烈な支援者であることも考慮に入れたのだろう。

 今年初め、米大統領がバイデン氏に代わり、合意の立て直しを模索してきた。一方のイランでは今夏、大統領が穏健派から反米保守強硬派のライシ師に代わり、状況はむしろ悪化した。

 わずかな光明は、イランの新政権が初めて米国との間接交渉に臨むことである。4月に始まったが、ライシ師が6月の大統領選に当選し、中断していた。今月29日から英仏独を仲介役にウィーンで開かれる。事態打開の糸口にしなければならない。

 とはいえ、ライシ師は「交渉のテーブルは離れないが、国益を損ねようとする考えには反対する」と述べている。譲歩はしないとの強硬姿勢だろう。

 突き付けるハードルは相当高い。その一つが「二度と核合意を離脱しない」との保証を米国に求めることだ。核合意は守っていたのに18年に突然、「手のひら返し」をされ、経済制裁も再び科された。米国不信や反米感情が高まるのも当然だろう。核開発も再び動かし始めた。

 二つ目のハードルは米国が先に制裁を全面解除することだ。どちらも厳しい条件である。

 トランプ政権に非があったのは間違いない。まずは米国が何らかの譲歩をすべきだろう。

 イスラエルの「核」も今後の鍵を握る。中東地域で唯一、核兵器を持っているが、核拡散防止条約(NPT)に加わっておらず、IAEAなどの査察も受け入れていない。そんな好き勝手が許されるのは、米国という後ろ盾があるからだろう。米国がイスラエルに核保有を認めているのは極めて理不尽だ。

 エジプトなどが訴えてきた中東非核地帯の創設にも、イスラエルや米国は反対している。米国は過度のイスラエル擁護をやめ、中東地域全体の平和と安定重視に方向転換すべきだ。

 もちろん、事態打開を図る責任はイランにもある。19年からは段階的にウランの濃縮など合意違反を繰り返してきた。IAEAの先週のまとめでは、推定で最大濃縮度60%のウランを17・7キロ貯蔵しているという。合意の上限3・67%をはるかに上回り、核兵器製造レベルの濃縮度とされる90%に迫っている。

 交渉を通して、まずはイランに核開発の中止を求めることが必要だ。万一、核兵器を手にすれば、イランと敵対しているサウジアラビアなども核兵器開発に乗りだしかねない。負の連鎖を避けるため、粘り強く対話を重ねることが求められる。

 被爆国の日本には、核軍縮を進めていく責任がある。イランの友好国として、核合意を支持し続けてきた。中東地域に安定した平和をもたらすためにも、核合意立て直しに積極的な役割を果たさなければならない。

(2021年11月24日朝刊掲載)

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