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連載・特集

広島世界平和ミッション 参加への思い <3> 藤本義彦さん(39) 広島経済大助教授=広島市西区高須

対話重ね視野広げる

 いかなる戦争や紛争にも、完全な正義や悪は存在しない。しかし、当事者は互いに自らを正しいと思い、相手だけが悪いと考えがちである。

 このような勧善懲悪的な発想、あるいは「正義」か「悪」かのどちらかに色分けするような思考方法こそが、戦争や紛争の解決を阻んでいる。平和を構築するには、時間はかかるかもしれないが、自らの立場を超え、相手の立場からも問題を理解しようとする姿勢こそが重要である。

 その意味で、人種隔離政策(アパルトヘイト)を撤廃した一九九〇年代以降の南アフリカの在り方は、内政問題とはいえ、私たちに示唆を与えてくれているといえる。

 学生時代から関心を寄せてきた南アは九四年、全人種が参加する総選挙を初めて実施し、ネルソン・マンデラ大統領が誕生した。暴力革命ではなく対話によって、白人から黒人へと平和的に政権が移行したのである。

 それから十年。白人と黒人は多くの困難に直面しながらも、どうにか民主化を進めてきた。それを支える「対話と和解の精神」は、ヒロシマが被爆後に培ってきた平和の精神と相通じているのではないだろうか。

 さらに特記すべきは、南アは世界に先駆けて九一年に核兵器を解体、廃棄したことである。

 各地の訪問先では戦争や紛争、その後も引きずる社会の諸問題について、人々と直接話し合い、厳しい現実に素直なまなざしを向けたい。

 「なぜそのようなことになったのか」「人々は何を考え、どう行動しているのか」。ヒロシマの経験と照らし合わせながら理解を深め合い、信頼を醸成したい。

 そうした対話からきっと、広島で暮らすだけでは想像もできなかった発想や知識が得られるだろう。今後、核兵器廃絶や平和について考えるうえで替え難い経験だ。

 帰国後はその経験を、講義などを通して学生たちに伝えたい。ヒロシマを押し付けるのではない。ヒロシマと訪問地の経験を対比し、問題を具体的に語り合うことによって、平和を構築して行く第一歩をともに踏み出したいと考えている。

ふじもと・よしひこ
 1996年3月、広島大大学院社会科学研究科博士課程後期を単位取得満期退学。同年から広島経済大専任講師。99年同大助教授。93―95年、南アフリカ・ヨハネスブルクのヴィットヴァーテルスラント大に留学。専門はアフリカ政治学。広島市安芸区出身。

(2004年2月22日朝刊掲載)

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