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社説・コラム

社説 核兵器禁止条約と日本 ドイツの「参加」見習え

 12月にも誕生するドイツの新政権が核兵器禁止条約の締約国会議にオブザーバー参加するという。核なき世界への前進を目指す動きであり、歓迎したい。

 9月の総選挙で第1党に返り咲いた中道左派の社会民主党(SPD)をはじめ、政権を組む三つの党が、来年3月に開かれる初会合へのオブザーバー参加を連立合意書に盛り込んだ。

 ただ、ドイツを含む欧州各国や米国、カナダが加盟する北大西洋条約機構(NATO)側の反発が予想される。冷戦時からドイツをはじめ欧州には米国の戦術核が配備され、日本と同じ米国の「核の傘」の下にあるからだ。オブザーバー参加実現までの道は平たんではなかろう。

 それでも忘れてはならない。核兵器がある限り、偶発的な事故や誤った判断による発射、核テロなどのリスクは常につきまとう。人類滅亡を避けるため、廃絶を目指す必要がある。

 欧州では他に、NATO加盟のノルウェーや、非加盟のスイスとスウェーデン、フィンランドがオブザーバー参加する方針だ。そこに、影響力の強いドイツが加わる意味は大きい。

 問われるのは日本だ。被爆地選出の岸田文雄首相は核兵器廃絶を「ライフワーク」に掲げている。しかし先月の首相就任直後の所信表明演説では、禁止条約はおろか、被爆者らが強く望む締約国会議へのオブザーバー参加には言及しなかった。

 岸田首相は先日、国連の中満泉事務次長と会談した。禁止条約については、保有国が賛同していない現状での署名・批准には後ろ向きなまま。閣僚も消極的だ。林芳正外相は「保有国を関与させる努力が必要だ」と、慎重姿勢を崩していない。

 背景にあるのは近隣の中国や北朝鮮の不穏な動きだろう。特に中国の軍備増強や海洋進出、台湾威嚇は目に余る。さらには10年以内に少なくとも千発の核弾頭を保有する意向があると、米国防総省は分析している。

 そうしたことから日本は、米国が検討中の「核の先制不使用」政策にも反対している。

 しかし、「核の傘」、つまり核抑止論に依存していれば、いつまでも核軍拡競争は続いてしまう。悪循環から抜け出すには思い切ってオブザーバー参加するしかあるまい。議決権はないが、禁止条約の目指す核兵器のない世界に、日本も賛同している証しとなるはずだ。

 それすらできないようでは、核兵器廃絶に対する本気度が疑われる。ただでさえ近年、政府が毎年、国連総会に出す核兵器廃絶決議案の内容が後退し続けている。核廃絶に尽力する世界の国々や国際組織を失望させているのは間違いなかろう。

 そんな政府の姿勢は国民に支持されているのか―。先の総選挙で当選した衆院議員の6割近くが、批准か、オブザーバー参加に賛成している。市民アンケートで明らかになった。

 連立与党の公明党もオブザーバー参加を政府に求めており、国権の最高機関である国会では今や多数派と言えよう。

 ドイツがオブザーバー参加すれば、先進7カ国(G7)では初めてとなる。日本が見習えぬはずはない。会議不参加は被爆国としての責任放棄だ。ドイツなどと連携して、保有国への働き掛けを強め、核なき世界への動きを加速させるべきだ。

(2021年11月26日朝刊掲載)

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